トランプ関税による混乱
グローバルに事業を展開する企業にとって、トランプ政権の関税政策は「悪夢」そのものだ。関税が引き上げられれば、米国向け輸出品のコスト競争力は落ちる。当然ながら、その影響は日本だけでなく、中国を含む他国の輸出にも及ぶ。
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では、米国内での現地生産に切り替えれば解決するのか。実際、トランプ関税の発表後、現地生産の拡大を打ち出した企業は少なくない。だが、自動車メーカーが米国での生産比率を高めたとしても、部品を海外から輸入していれば関税の影響は避けられない。調達先の立地も含めて再考しなければならず、最適な判断を下すのは容易ではない。
さらに、トランプ政権の関税政策は一貫性に欠けている。例えば、4月9日に発動された相互関税は、わずか13時間後に中国を除く国・地域への適用を90日間一時停止すると発表された。中国に対しても、一時は125%まで引き上げられていた関税が、5月12日の米中合意により他国水準へと引き下げられた。
こうした状況では、関税が今後も継続するという前提で長期的な経営判断を下すのは難しい。むしろ、関税の変動に柔軟に対応できる調達体制や生産拠点の配置、すなわち
「しなやかなサプライチェーン」
の構築を目指すべきだろう。
多様化するリスク
サプライチェーンマネジメントにおいて、リスクとして認識すべき対象は関税だけではない。リスクの発生要因ごとに分類すれば、以下の九つに整理できる。
・自然災害リスク(地震、水害など)
・人為災害リスク(火災、事故など)
・企業リスク(倒産、不正・不祥事など)
・経済リスク(為替変動、インフレなど)
・政策リスク(関税、環境規制など)
・地政学リスク(紛争、テロなど)
・公衆衛生リスク(パンデミック、健康被害など)
・人権リスク(強制労働、児童労働など)
・サイバーリスク(情報漏洩、システム障害など)
このうち、「自然災害」「人為災害」「企業」「経済」の各リスクは古くから知られてきた。地震対策なら、避難訓練や耐震補強、安否確認システムの整備、保険加入といった対応が体系化されている。あとは、どこまで実行し、どれだけコストをかけるかを決めるだけだ。
「政策」「地政学」「公衆衛生」の各リスクも新しい概念ではない。ただ、近年はサプライチェーンへの影響力を強めている。トランプ関税がその一例だ。脱炭素化の社会的圧力が急速に強まれば、再生可能エネルギーの使用に加えて、CO2排出を抑えるために地産地消の推進が求められる可能性もある。
イエメンのフーシ派による紅海での船舶攻撃は、スエズ運河の航行を妨げ、アジア~欧州間の
・リードタイムの長期化
・運賃高騰
を招いた。パナマ運河や台湾海峡でも、同様の事態が起きる可能性は否定できない。パンデミックが再発すれば、新型コロナのときのようにロックダウンが発動され、人やモノの移動に大きな制約がかかるだろう。
「人権」や「サイバー」リスクのように、これまであまり意識されてこなかった新たなリスクも存在感を増している。新疆ウイグル自治区での人権問題を受けて、新疆綿を使ったアパレル製品に不買運動が起きたことは記憶に新しい。
2022年には、トヨタ自動車に樹脂部品を供給する小島プレス工業(愛知県豊田市)がサイバー攻撃を受け、トヨタは国内全工場の稼働を一時停止した。これらのリスクは自然災害のように施設を破壊するわけではないが、サプライチェーンへの影響は小さくない。企業が持続可能で安定した経営を目指すなら、こうした「非伝統的リスクへの対応力」を強化する必要がある。
・現地生産の拡大
・人権デューデリジェンス(企業が自らの事業活動において、人権に対する悪影響を防止・軽減・是正するために行う継続的な取り組み)
・サイバーセキュリティ対策
などを通じて、被害を未然に防ぎつつ、リスク発生時の影響を抑えること。そして、早期の業務回復を実現することが重要だ。
多拠点分散で自然災害対策
サプライチェーンのリスクマネジメントが難しいのは、調達先や納品先の事業が停止すると、自社の事業にも影響が及ぶ点にある。自社のリソースだけを対象に事業継続計画(Business Continuity Plan)を作成しても、事業の持続性・安定性は十分に高まらない。
実際、東日本大震災やタイの洪水などの大規模自然災害では、調達先の被災によるサプライチェーンの途絶が問題となった。自社が被災していなくても、材料や部品を調達できず事業を停止した企業が相次いだのだ。
大手企業は事業の持続性・安定性を高めるため、複数の企業から材料や部品を調達することが一般的だ。火災や事故などの人為災害リスク、倒産や不祥事といった企業リスクに対しては、この複数調達によるリスクヘッジが一定の効果を発揮する。
しかし、地震や水害といった大規模自然災害の場合、調達先が複数あっても、生産拠点が同じ地域に集中していれば意味が薄い。自然災害の影響を一様に受けてしまうためだ。リスクマネジメントを強化するには、調達先の企業だけでなく、拠点の場所も分散させる必要がある。
また、直接の調達先である一次サプライヤーだけでなく、その先の二次以下のサプライヤーも分散させることが重要だ。直接調達先を分散しても、特定工場で作られた部品が多く使われていれば、一度の災害でサプライチェーンが途絶するリスクがある。つまり、間接的な調達先を含めたサプライチェーン全体を把握しなければ、途絶リスクはヘッジできない。
この調達先の分散化は、政策リスクや地政学リスク、公衆衛生リスク、人権リスクへの対応力も高める。特定の企業や場所でリスクが発生しても、代替先に切り替えることで事業への影響を軽減できるからだ。
一方で、サイバーリスクに関しては調達先が増えるほどリスクも高まる。セキュリティが脆弱な調達先を経由して攻撃を受ける可能性が増すためだ。したがって、間接的な調達先も含めて一定水準以上のサイバーセキュリティを求めるなど、対策を講じることが重要となる。
さらに、サプライチェーンはモノの輸送をともなうため、リスク発生で平時の輸送手段やルートが使えなくなる可能性がある点も考慮しなければならない。幹線道路が寸断された場合は船で輸送し、A港が封鎖された場合はB港から出荷するといった代替手段やルートを平時から検討しておくべきだ。リスク発生時に代替策を円滑に使えるよう、事前に代替先と契約を結ぶことも有効である。
VUCA時代の混乱を超える強靭性
サプライチェーンのリスクマネジメントには、もうひとつ見過ごせない難点がある。それは、関係する部門が多岐にわたることである。
例えば、調達先の分散化は調達部門が主導するが、それにともない高まるサイバーリスクへの対応にはIT部門の関与が不可欠だ。輸送手段やルートの分散化は物流部門の管理範囲である。現地生産の拡大を進めるなら、生産部門の参画も必要だ。企業リスクや経済リスクに備えるためには、経理・財務部門や販売・営業部門も巻き込む必要がある。リスクマネジメントの強化を企業価値の向上につなげるなら、IR部門の関与も求められる。
一部の日本企業はサプライチェーンマネジメント部や室を設置しているが、多くは物流管理にとどまり、調達から生産、販売までの全体を統括していない。ましてやリスクマネジメントまでカバーしている企業は非常に少ない。現実には、多くの部門が関与することを考えると、特定の組織に全てを任せるのは難しい。だからこそ、全社の経営課題として取り組むことが重要である。
VUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の時代と呼ばれて久しいが、サプライチェーンを取り巻く状況は混沌を深めている。2020年以降だけでも、
・トランプ関税やスエズ運河の封鎖
・コロナ禍でのロックダウン
・新疆綿の不買運動
・サイバー攻撃による生産停止
など、予想外のリスクが頻発し、企業活動に大きな影響を与えている。逆にいえば、こうした混乱に柔軟に対応できる「しなやかなサプライチェーン」を構築できれば、企業の競争力を相対的に高められる。
サプライチェーンを制する者がビジネスを制する。先の見えない今だからこそ、サプライチェーンのリスクマネジメントを戦略的に強化し、持続的かつ安定的な成長を目指すべきである。(小野塚征志(戦略コンサルタント))
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みんなのコメント
他者は全く知らないんだーい
って思っちゃう幼稚な読者を騙すタイプの記事
ここのライターは殆どがコレ