機関や変速機が健全なのだから!
つくばの大平原に広がる、メカ砦ならぬメカトリエにて、大貴族号(200万円で買った先代マセラティ・クアトロポルテ)と初対面し、内外装の意外な没落ぶりに軽い衝撃を受けた私。
【画像】清水草一が所有する大貴族号こと先代マセラティ・クアトロポルテ! 全9枚
もうひとつ衝撃だったのは、グローブボックスに残されていた大量のリモコンだった。オーディオやテレビのものらしいが、何が何やらサッパリわからないし、その雑然ぶりが大貴族らしくなかった。
新車時(1540万円)はともかく、最近これに乗っていた方は、見栄重視のパンピーだったのかもしれない。何しろ激安だし……。
いや、そんなことはいい。なにしろ機関や変速機が健全なのだから! フェラーリ・エンジンがちゃんと動いて、その動力が後輪に伝えられれば、あとはすべて枝葉末節! 無視してヨシ!
タコちゃん(マイクロ・デポ岡本和久代表)「じゃ、試乗します?」
オレ「えっ、乗れるんですか!?」
タコちゃん「乗れますよ。車検ついてますし。私もまだ乗ってないんで」
我々は、大貴族号で大平原へ乗り出すことになった。
私は非常に緊張した。なにかこう、ものすごく繊細な壊れものに触る気分だったのである。この緊張感は、フェラーリ288GTO試乗時に匹敵する。
『くおぉぉぉぉぉーん!』
キーをひねると、若干長めのクランキングの後、フェラーリ製4.2リッターV8エンジンは『ぶわぉ~ん』と重々しく目覚めた。思わず「お~!」と声が漏れる。
右パドルを引いて『D』に入れ、しずしずと発進。徹底的に人気のないデュオセレクト(シングルクラッチAT)は、おだやか~につながって後輪に動力を伝えた。
ジャリ道を慎重に乗り切って舗装路へ。軽くアクセルを踏み込むと、フェラーリ・サウンドを発する間もなく、デュオセレクトがシフトアップする。
それはまさにシングルクラッチATのソレ。ゆっくりした変速タイミングは、フェラーリのF1マチックより、アルファ・ロメオのセレスピードやフィアットのデュアロジックに近い。
左パドルでシフトダウンし、少し回転を上げてみた。『くおぉぉぉぉぉーん!』という吸気音が控えめに響いてとても気持ちいい。20年くらい前、先代クアトロポルテに初めて試乗した時、「これぞ我が理想のサルーン!」と感動した記憶がよみがえる。
その背景には、30年以上前に試乗したランチア・テーマ8.32への陶酔があった。私は、フェラーリ・エンジンを積んだセダンにずっと憧れてきたのだ。それは、かつての南極大陸の如き未踏の地。男のロマンである。
オレ「ちゃんと走りますね!」
タコちゃん「いまのところはねぇ」
ちゃんと走るだけで涙。
『タタタタタタタタタッ!』
信号で止まる。アイドリング状態はとても静かだ。さすがはクロスプレーン。
フェラーリV8はパワーとレスポンス重視のシングルプレーンが基本だが、マセラティ用には快適性重視のクロスプレーンが採用されている。その効果を、今ごろになってはっきり理解した形だ。
しばらく進むと、平坦路で『タタタタタタタタタッ!』という、金属的な振動と音が響いた。大地震の時真っ先に感じるP波のようだ。特に路面が悪いわけじゃないのに。
その後も大貴族号は、一見何の変哲もない路面で、一見気まぐれに『タタタタタタタタタッ!』という異音を発した。
オレ「なんですかね、この音」
タコちゃん「サスから出てますね」
オレ「左前かな?」
タコちゃん「右からも……」
サスがほとんどストロークしてない状態で、こういう音が出るってことは、中立付近で共振的な振動が発生しているんだろう。震源地はサスペンション取り付け部か?
ひょっとしたら前オーナーは、この音が原因で手放したのかもしれない。クラッチは85%も残ってるけど、こんなの耐えられないわ、もうイヤーッ! って。
でも、私はこれくらいガマンできる。動けばいい! 走ってくれればそれでいい! なにしろこれは激安マセラティの大貴族号なのだから!!
(つづく/毎週金曜日昼頃公開予定)
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