編集者で、書店の選書担当としても活動する贄川雪さんが、月にいちど、GQ読者におすすめの本を紹介。今月は心身の整理整頓がテーマ。
大型連休が明け、梅雨の到来も手伝って6月は心身の不調を訴える人が増える季節。近年発売されているメンタルケア関連の本の膨大さもそれを証明しているかもしれない。ここでは検索にヒットしやすいストレートな実用書ではなく、6月に向けて日常を穏やかに整えなおす、あるいは今後もストレスフルな日常を渡り歩いていく際のお守りになりそうな本を紹介する。
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誰かの「映えない」休日
そもそも、ゴールデンウィークという長い連休を、皆さんはどのように過ごしたのだろう。世の中的に、連休とはお祭りのようなもので、多くの人たちが旅行や帰省、友人との再会などのイベントで、ふだん以上に心身を酷使している。だからこそ、いつもの休日のように穏やかに過ごしたという人も少なくないだろう。では、あらためて「いつもの休日」とはどんな1日を想像するだろう。
『私の孤独な日曜日』は、2023年に設立されたひとり出版社「月と文社」を営む藤川明日香さんが、「普通の人の日曜のひとり時間には、どんな思いや人生が隠れているのか」を知りたいという想いから企画・出版した1冊である。世代や職業もさまざまな17人から、日曜日のひとり時間に何をして過ごし、どんなことを感じている/感じたのかを記したエッセイが寄せられた。
本書で藤川さんは「休日についてのほんわかエッセイが読みたいのではなく(中略)その人の根っこにある孤独感に迫りたいと思った」と記す。また、だからこそ「日曜日」と表現されている。たしかに、友人と会うなど「ハレ」の予定を入れがちな土曜日よりも、自分のために使う飾らない日曜日の過ごし方こそ、本来の自分らしさや今必要なものが投影されるように思う。
「お休みの日って、何してますか?」という質問は、社交辞令的でもあり、尋ねられると答えにくいときもあるのに、相手によっては自分もつい訊きたくなってしまう。いろいろな意味で興味深い問いである。実際に、本書は発売したてながら、すでに多くの問い合わせが寄せられているそうだ。
それはただの興味というだけではなく、もしかしたら今まで以上に見知らぬ誰かの「映えない」独りオフを垣間見ることが、別の誰かの自己肯定やメンタルケア、安心感や気分転換のヒントにつながっているからなのかもしれない。
自炊を味方にする
もし、心身に倦怠感をおぼえたときは、専門家に相談すること、無理をせず休息をとることが大前提だ。しかしそうは言っても、いつまでも休んでばかりもいられないのが、私たちの現実でもある。それに、不規則な生活を継続すると、かえって元の日常への復帰が難しくなったり、自己嫌悪を増長したりする場合もある。それならば、横になってぐるぐると悩みをめぐらせるよりも、何かしらの1アクションをするほうが、気分の切り替えややる気のきっかけ、小さな達成感と自己肯定につながることがある。
「自炊」は、そんなアクションの1つかもしれない。「自炊料理家」を名乗る山口祐加さんは、料理になんらかのハードルを感じているさまざまな立場の男女6人に、それぞれ3カ月間の自炊レッスンを行なった。『自分のために料理を作る』は、「豚汁」や「しょうが焼き」といった課題メニューを調理しながら交わされた会話をまとめたものだ。ただ調理手順を手ほどきするのでなく、回によっては精神科医などをされている星野概念さんも招き、会話がより広がっていく。どうして料理に苦手意識があるのか。自炊をやってみたことでどんな変化を感じたのか。食材を切り、鍋をかき混ぜる。手を動かしながら一つひとつ話をしていくうちに、まさにカウンセリングのように、受講生たちの心はゆっくりとときほぐれていく。
「理想の家庭料理に押しつぶされそう」「食事は決めることが多い」「作っても誰も褒めてくれない」「自分の料理に自信が持てない」など、料理の悩みはなぜかすぐに共感してしまう。そして「料理」を「仕事」に置き換えても、あまり違和感がない気がする。料理と仕事は、構造が似ているのだろう。しかし違うのは、自炊はいつも私たちの味方にできる、ということだ。
もちろん、そもそも無理して料理なんてしなくてもいい。しかし山口さんが書くとおり、自炊ができれば「自分の体調の移り変わりや生活の変化に合わせて、自分を労わり養っていける」。そして「この力があれば、ちょっとやそっとのことでは倒れないで生きて」いける。面倒だと思っていた1家事に対する見方が、大きく変わるかもしれない。
人気作家の「生活」エッセイシリーズ
作家・エッセイストの群ようこさんといえば、『かもめ食堂』や『パンとスープとネコ日和』などの小説が有名だが、今回は群さんの「生活」エッセイシリーズから、一気に3冊を紹介したい。
シリーズ第1作の『ぬるい生活』は、「頑張らなくていい」を肯定してくれる25編のエッセイ集だ。年齢を重ねる中で生まれる「ままならなくなってくる自分」をそのまま受け止め、無理も我慢もせず、自愛を大切にするという群さんの自分に対する飾らない向き合い方から、現状打開のヒントを得られるかもしれない。
第2作『ゆるい生活』は、突然めまいに襲われて「漢方薬局」を訪れたところからスタートする。ここからなぜか、お菓子は禁止、体を冷やさない、水分はほどほどに、趣味は1日ひとつなど、漢方薬を飲むだけでは済まされない、我慢と忍耐の暮らしが始まる。本書では、それから約6年間の日々の過ごし方と、意識や体質の改善の中で起こった変化がつづられる。
そして第3作『かるい生活』は、「体をかるく」「物をかるく」「しがらみをかるく」の3章からなる。体調管理を続けながら新たに着手したのは、室内の所有物からベランダのゴミまで、大量の物の見直しと処分だった。そしてさらには、余計な人間関係の整理へと「かるさ」の追求は続いていく。マイペースな「デトックス」エッセイだ。
なお、この3作に続く『たべる生活』、『たりる生活』もおすすめだ。前者は、料理がどちらかといえば嫌いという群さんが、身体を最も心地よく保つための「食」に向き合うという内容だ。後者は、愛猫との死別を機に、身軽な暮らしに向けて引越しを決意し、溜め込んだ大量すぎる本や衣服の処分に悪戦苦闘する「終活第一歩」奮闘記となっている。
ライフステージに沿ってテーマは移り変わりながらも、いつも一貫して追求されているのは、「自分の心身が最も心地よい状態を保つためには」ということだ。当然その方法は、人それぞれ違うに決まっているし、本を読んでも解決しないことのほうが多い。結局、群さんが綴るように、自分なりにトライアンドエラーをし続けるしか、消えることのない日々のもやもやに対する解決はないのかもしれない。
贄川 雪(にえかわ ゆき)
編集者。書籍や雑誌、webの編集、取材執筆。plateau booksの選書と企画担当、ときどき店番。
plateau books(プラトーブックス)
建築事務所「東京建築PLUS」が週末のみ営む本屋。70年代から精肉店として使われていた空間を自らリノベーションし、2019年3月にオープン。ドリップコーヒーを味わいながら、本を読むことができる。
所在地:東京都文京区白山5-1-15 ラークヒルズ文京白山2階(都営三田線白山駅 A1出口より徒歩5分)
営業日:土・日・祝祭日 12:00-18:00
WEB:https://plateau-books.com/
SNS:@plateau_books
編集・神谷 晃(GQ)
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