BYD台頭と国策の矛盾
かねてより議論の的だった電気自動車(EV)補助金政策が、改めて日本の産業構造と向き合う契機を提供している。
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直接のきっかけは、中国のEV大手・比亜迪(BYD)の車両にも日本のエコカー補助金が支給されているという実態に対して、立憲民主党の藤岡隆雄議員が異を唱えたことだった。
しかしこの問題は、国籍論争や政治的パフォーマンスだけにとどまるものではない。むしろこれは、日本が自らの製造業の競争力をどう認識し、どのように未来に向けて布石を打つのかという、構造的問いである。
競争力を暴く制度改正
日本の補助金政策は、形式上「メーカー支援」ではなく
「ユーザー支援」
を謳っている。つまり、トヨタだろうがBYDだろうが、日本国内で登録された車両であれば、消費者に対して補助金が給付される。この論理は一見、公平性の名の下に成立しているように見える。しかし現実には、補助金がどの企業の収益に貢献するか――を見ると、その公平性が
「幻想」
にすぎないことがわかる。EV購入補助は、最終的に自動車メーカーの販売増加と収益改善に寄与する。消費者にとっての価格低下が購買意欲を刺激し、それが販売台数に反映される。そして、補助金がなければ成立しなかったかもしれない取引が、結果的に海外メーカーの市場シェアを拡大させるのだ。とりわけ、中国のEVメーカーは価格と機能のバランスに優れ、コスト競争力で日本メーカーを上回る例も少なくない。
日本政府は2024年度から補助金算定基準を見直し、
・インフラ整備状況
・アフターサービス体制
を重視する仕組みに変更した。これにより、BYD「ATTO3」の補助金額は前年度の85万円から35万円へと大幅に削減された。しかし、それでもなお同車が競争力を保ち続けている事実は、むしろこの政策が本質的な競争力の差を可視化してしまったといえる。
形式的中立性の落とし穴
なぜこのようなことが起きるのか。理由は明快である。EVはもはや単なる車両ではなく、電子機器と同様のサプライチェーン支配が明暗を分ける産業へと進化している。中国は上流のバッテリー素材から下流の完成車、さらには公共インフラに至るまで、国家を挙げて垂直統合を進めている。そのためBYDは、バッテリーのセル製造、組立、シャシー開発、電子制御システムまで内製可能であり、最終製品を競争価格で提供できる。
一方、日本の自動車産業は、依然として水平分業を基礎とし、系列企業との関係に支えられている。トヨタのような大手企業でさえ、パワートレインやバッテリーを一から全て内製する体制は整っておらず、海外との共同開発や外注を活用しているのが現状だ。この構造的違いが、EV競争における価格差と商品性の差を生んでいる。
ここで議論が
「日本のメーカーを守るために補助金を日本車に限定すべきか」
というナショナリズムの色彩を帯びた論点に移るのは早計だ。重要なのは、日本の補助金政策が、どの産業プレイヤーの成長を結果的に促す構造になっているかを冷静に見つめることだ。現行制度は、国籍を問わない
「形式的中立性」
を保ちつつも、価格競争力の高い中国勢の後押しになっているという事実を直視すべきだろう。
米国や欧州連合(EU)は、ここで明確な選択をしている。米国はインフレ抑制法(IRA)によって、自国または友好国で製造されたEV・バッテリーのみを補助対象とする制限を設け、中国製品を排除している。EUも補助金支給にあたって、域内製造比率や供給網の信頼性を重視する政策を導入しつつある。
税金が中国産業を支援
日本が同様の制限措置を取らない背景には、
・多国間貿易協定への配慮
・対中関係悪化のリスク回避
といった要素があるだろう。しかしその代償として、日本市場における中国メーカーの定着を黙認する構図が生まれている。補助金政策は、単に自動車産業の支援策という枠を超え、経済安全保障や供給網戦略の一環として機能させるべき局面に差し掛かっている。
補助金の存在意義とは本来、社会的・産業的な転換を促すために、民間の意思決定コストを一部肩代わりするものである。では、今の補助金が促しているのは何か。答えは明白だ。日本の消費者が中国製EVを
「コストパフォーマンスの勝者」
として受け入れるインセンティブを提供し、それにより中国メーカーが国内市場の土壌を耕すことに加担している。
しかも、問題は車だけではない。バッテリー製造設備という裏方産業においても、日本企業は安さと効率性を求めて中国製ラインの導入を検討しているという報道がある。経済安保を目的として数千億円規模の税金がバッテリー投資に投じられているが、その金が最終的に中国の設備メーカーに流れる構造があれば、政策目的そのものが裏切られる。
結局のところ、補助金という“市場介入”が、自国産業の優位性を回復する装置になっていない限り、制度自体の存在が問い直されることになる。
「日本の血税が中国産業の加速装置となっている」
という批判が出るのは当然だろう。
戦略的選択を迫られる日本
これに対して
「市場原理に委ねるべき」
「良い製品が売れるのは当然」
といった声もあろう。しかし、その市場原理が国家主導で歪められているのが今のグローバルEV市場の実態だ。自国産業に戦略的後押しを与えるために国家が積極介入する――これはもはや米中のみならず、ドイツやフランスでも常態化している。
ならば日本はどこに立つべきか。選択肢はふたつだ。ひとつは、現行の制度設計を維持し、「最も優れた商品が勝つ」というグローバル市場の潮流に自国産業も適応させるという選択。もうひとつは、戦略的に補助金の枠組みを再構築し、自国内での付加価値創出を最大化する仕組みに変えていくこと。
問われているのは「中国製品に補助金を与えるか否か」ではなく、
「補助金という制度を通じて、自国に何を残すのか」
である。もしそこに明確な戦略が欠けているのであれば、いかに制度が精緻に設計されていても、それは単なる他国への支援金に成り下がる。国家が負担する補助金が、他国メーカーの市場獲得に寄与する構造にある限り、日本の産業は加速度的に空洞化する。これは憂慮ではなく、すでに始まっている現実である。
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