3度のMotoGP優勝経験を持つカル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)は、11月10日に開催されたホンダレーシングサンクスデーを、誰よりも楽しんだかもしれない。なぜならクラッチローは一生の夢を実現したのだ。それは500ccのグランプリバイクで初めてレーストラックを走ることだった。
1989年のロードレース世界選手権500ccクラスで、エディー・ローソンがホンダNSR500でタイトルを獲得した時、クラッチローはたった4歳だった。ホンダNSR500は史上最も多くの勝利を収めた最高峰クラスのグランプリマシンの初期バージョンであり、1984年から2001年の間に132勝を果たしている。
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アメリカ出身のローソンは1989年に4戦で優勝を飾った。最も成功したNSR500ライダーは、オーストラリア出身のマイケル・ドゥーハンで、1990年から1998年の間に54戦で優勝した。
1980年代後半の2ストローク500ccエンジンは、その威圧するようなパフォーマンスで有名だった。背筋がぞくぞくするようなエキゾーストノートとともに、170馬力のパワーが急激にパワーバンドに達してリヤタイヤにもたらされる。しかもライダーを保護するためのトラクションコントロールはない。
「NSRに乗るのは信じれられないほど素晴らしく、本当に名誉なことだった!」とクラッチローは、秋の美しい日差しのなか、ツインリンクもてぎで忘れられない走行をした後で語った。
「僕はドゥーハンの時代からレースを観始めた。ミックの特別なライディングスタイルや、リカバリーを観るのがいつも好きだった。僕はレースファンであると同時にいつもホンダのファンだった。だから物事はとてもうまくいったわけだ。NSR500で、もてぎのような素晴らしいコースを走ることができるなんて、僕のキャリアでも最高の瞬間だよ」
「バイクは、僕が慣れているバイクとは完全に異なるものだった。500ccでレースをしているライダーを観ていた時は、バイクに目を見張ったものだったけれど、今ではライダーたちこそが素晴らしいのだと分かったよ! 彼らがあのマシンでやっていたのはすごいことだ。あのバイクに乗ることができたのは本当に名誉なことだ」
■2ストローク500ccは「本当にコントロールが難しい」
クラッチローが現在乗っているホンダRC213Vは250馬力以上のパワーを発揮するため、彼は1989年型NSRのパワーに驚きはしなかったが、エンジンのパワーの生み出し方には驚嘆した。
「500ccは本当にコントロールが難しい。操作するのがとても難しいんだ」とクラッチロー。
「最後のターンや、ここのヘアピンの立ち上がりでは、フロントタイヤがすごく速く出ようとするから、リヤブレーキを多用してフロントタイヤを抑えなければならない。僕たちのバイクには(ウイリーを減らすための)電子制御がついている。だからもしウイリーしたければ、電子制御を抑える」
「違いは、どれだけ馬力をコントロールできるかということだね。旧型の500ccでは馬力がコントロールできないように感じる。だから右手首での操作とクラッチのコントロールがすべてなんだ。これはまったくの別物だよ!」
「2ストロークのパワーバンドについてみんなが話していることは知っていたが、でも何も分かっていなかった! 正直なところ、スロットルを開けすぎるつもりはなかった。ターン1と2のあたりの、ダブルエイペックスの右カーブでは、もう少し自信が持てたように感じたけれど、あのバイクでレースをしていたレーサーたちのようには走れなかった」
「彼らにはクイックシフターすらなかったんだ。当時はどのようにクラッチをリリースするか、どのようにシフトアップやシフトダウンをするか真剣に考えなければならなかった。これは本当に特別なことだ」
「このバイクに乗っていると、今自分が持っているものが当たり前だと思っていることに気づくよ。NSRの乗り方は、まるでモトクロスバイクに乗るような感じだ。なぜならすべてを手でやらなければならない。すべてが自分自身の手にかかっているんだ。奇妙な感じだけど、素晴らしいよ。このバイクは速いし快適で見事なものだ。でも自分がこのバイクで1989年にレースをするところは想像できないけどね!」
2ストローク500ccのバイクは、さらに大型のMotoGPバイクが2002年に登場するまでは、バイクレースにおける最高峰だった。しかし、市販されているホンダCBR600RRのエンジンを搭載したMoto2バイクのエンジン、シャシー、タイヤ、電子制御の開発が非常に早く進められたため、2010年にMoto2バイクは500ccよりも速く周回できるようになった。
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