2025年、全日本スーパーフォーミュラ選手権に『カメラアシスタント兼フォトサポアンバサダー』として帯同している後藤佑紀さん。昨年までレースアンバサダーを務めながら、次第に「自分で撮る方」にものめり込んでいったというユニークな経歴を持つ後藤さんは、一念発起しプロフェッショナル・フォトグラファーとしての道を歩み出そうとしています。
後藤さんは、スーパーフォーミュラの世界をカメラでどう切り取っているのか。そして、一線級のフォトグラファーを目指すために、何に奮闘しているのか。そんな“駆け出しフォトグラファー”のリアルな世界観を覗いてみたい! そして微力ながら後藤さんの挑戦を後押ししたい! という趣旨のもと、その写真を第一人者のプロカメラマンに寸評していただくというのが、この連載のテーマです。
【新連載/アンバサダー後藤佑紀と学ぶSF写真道 Vol.1】プレッシャーを跳ね除け、ウイニングラン撮れました!
教えを請うのは、日本レース写真家協会(JRPA)会長にしてスーパーフォーミュラ・オフィシャルフォトグラファーの小林稔氏。果たして、後藤さんの写真の評価やいかに?
すでに撮影を楽しんでいらっしゃるファンの皆さんには参考になる内容を、そしてこれから本格的にチャレンジしてみたいと考えている方には「ちょっと背伸び」するくらいのレベルを目指してスタートした連載は今回が第2回。聞き手は、“写真についてはウルサイ系”の(めんどくさい)編集者、as-web編集部ナカノでお届けします。
■国内ではここだけ。“トンネル”での撮影アプローチ
──おかげさまで連載初回は各方面から好評の声をいただきまして。さて、今回はもてぎラウンドで撮影した写真から、後藤さんご自身に3枚に絞って持ってきてもらいました。どれから行きましょう?
後藤:えーっと、じゃあ自信のある方から(笑)。ここ(5コーナー先の立体交差)はトンネルのようになっていて、ちょっと夜みたいな、他とは違った雰囲気で撮れるので、行こうと決めてました! これはマニュアルモードで撮ってます。S(シャッター速度優先)モードだと後ろの明るいところに合ってしまうかなと思って。本当はトンネル内部の上についている照明も入れて、ちょっと流し気味でも撮りたかったんですが、機材的な制約もあって安パイな写真になってしまいました。先生、この場所でカッコいい写真にするには、どう撮ればよかったでしょうか?
小林:これはこれで、もう完全にアリな写真ですよ。ちょうどタイミングよく後ろにクルマも来ているし、ここが暗い場所というかトンネルということも、ある程度知っている人には分かるしね。我々の仕事として、どこのサーキットで撮った写真か分かるというのもすごく大切なことなんだけど、青い縁石やトンネルの中という点で、何年後かにこの写真を見てももてぎだとすぐ分かる。そういう意味で、すごくよくできている写真だと思いますね。
後藤:ありがとうございます!
──先ほど露出設定の話がありましたが、こういったシーンで気を付けるべき点は?
小林:僕は結構、シャッター速度優先モードで撮る人なんです。マニュアルは基本的に使わない。
後藤:え、そうなんですか?
小林:横着なだけです(笑)。その場合でも、シャッター優先のまま、露出補正をプラス側に振ってしまえば、露出を合わせることはできる。ただ、確かにこの場所では、マニュアルで撮った方が確実かもしれないね。いまはデジタルなので、明るさはすぐにモニターで確認できるし、撮りながら調整していけるから。照明を入れたかった、というのは広角(レンズ)で?
後藤:はい、他の人が撮っているのを見て、ここでどうやったら照明が入るんだろう、と思っていたんです。
小林:この場所はいろいろな撮り方があるからね。照明を入れるとか、流すとか。人によっていろいろなアイデアが生まれる場所、それがもてぎのトンネルですね。
後藤:絶対いい場所だ! と思ったんですけど、自分の持っている撮り方のバリエーションでは、なかなか他のことが思いつかなくて……ちょっともったいなかったなと思って。
小林:(写真をよく見て)ちょっと前ピンだね。
──確かに編集者目線でも、もう少しヘルメットにピントは合っていて欲しいですね。ちなみにシャッタースピード(SS)は1/400です。
小林:僕だったらもっと速いSSで切っちゃう。
後藤:確かにこっちに向かってくるカットなので、止まっていていいですんもんね。これ、AFでピントを合わせようとすると、照明が当たることもあって、マシンのノーズに一番合いやすい気がするんですが……。
小林:そこはカメラの性能もあるけれど、あとは絞りを使って被写界深度を深くする、という手法もありますね。これ、絞りはF6.3か。つまり、そんなに絞ってないってことですよね。もちろん、深度が浅い写真の良さというのはあるけど、もうちょっと絞っていれば、ヘルメットくらいまでピントが合ったかもしれません。
後藤:F6くらいまで絞っていれば足りるかなという認識だったんですけど、意外と足りてなかったんですね……。やっぱり、つい開けたく(開放方向=深度浅い)なっちゃうといいますか。
──同じF値でも、後藤さんは「絞っていた」、小林さんは「絞りが足りない」と。
小林:別に浅くてもいいんだけど、フォーミュラカーの場合は、やっぱり主役はドライバー。そういう意味で、ヘルメットにピントが合っていてほしいんですよ。意図や構図などはまったく問題ないんだけど、ヘルメット付近にまでピントが来ていたら、100点に近い写真だったんじゃないかな。
後藤:ちなみに先生だったらどれくらいまで絞りますか? F8とか?
小林:8か……もう少し絞っちゃうかもね。やっぱり絞った方が安全ではあるからね。
後藤:わかりました。ありがとうございます!
■ベテランvs若手の“ビネット論争”勃発!
──では次のカットに。私はこれ、結構印象的な写真でした。
後藤:本当ですか? これ、実は先生への「質問」として持ってきたんです。
小林:5コーナーへの進入だね。
後藤:はい。複数台で絡んでいるところを撮りたいなと思うのですが、そういうときに2台ともフロントからリヤまで入れると、ちょっと引きになってしまうじゃないですか? なので「もう(マシンが画角から)切れてもいいから、バトルシーンの迫力を出しちゃえ!」と思ったのですが、なんかちょっと切り取り方が悪いなぁと自分でも思うんです。先生、いかがでしょう?
小林:いや、いいんじゃないかな。というのは、いま後藤さんも言ったように、2台をまるまる全部入れてしまうと、どうしても(構図が)緩くなるから。後ろのクルマが切れていても構わないし、その代わりに前のクルマが大きく写っている、というのは全然アリだと思いますよ。
後藤:これ、前のクルマもフロントウイングの端がギリギリ切れてしまってるんですよ。なんか、後ろのクルマを切るなら前のクルマは切らない方が良かったりしますかね?
小林:むしろ「後ろが切れてるんだったら、前も少し切れている」という考え方があるかもしれないね。これが1台だけのカットだったら、もちろんフロントウイングが切れているのは気持ち悪い。でも、2台が入っているこの構図だったら、違和感がない。
──確かに「バトル感」が増しますね。「この2台が戦っているんだ」というのが、切ることによって表現できているというか。
小林:そうそう、その通りだと思う。
後藤:切れ方が2台で違うのは、気になりませんか?
小林:大丈夫。フォーミュラカーの場合、タイヤは切れてほしくないけど、そこはちゃんと入っているしね。
──コーナーのエイペックスを見ているのか、ミラーを見ているのか、三宅淳詞選手のヘルメットの向きも“レース感”があって大事なポイントになっている気がします。
後藤:ですよね~!(嬉)
小林:……まぁ、そういう観点で言うなら、後ろのドライバーのヘルメットまで入っていると、より良かったかもしれないね。
後藤:あ、甘かった(苦笑)。
小林:だいぶ印象が変わってくると思うよ。そういう意味では、これの1カット前が見てみたい気もするけど。ただ、この写真は片側のタイヤが縁石に乗っているのも重要なポイントだし、僕はこういう写真は好きです。いいと思う。
後藤:ありがとうございます!
小林:ただね……ちょっといい?
後藤:はい。
小林:前回の写真でも気になっていたんだけど、ビネット(※写真の周辺=四隅を暗くする画像処理)はしない方がいいと思う。
後藤:えーっと、アンダー気味ですけど、この写真にはかけてないと思います。でも確かにビネットは好きですね! なんか、“締まる”感じがして。
小林:まぁそれがいまの流行りなんだろうけど……カメラメーカーの人は、いかに周辺が暗くならないようにするかという点に苦心してレンズを作ったのに、なんでみんな明るい・いいレンズを使いながらも暗くしちゃうんだろう、というのが個人的には気になるんですよ。
──ここは両論併記でいきましょう。後藤さんはビネット支持派。とくに若い方には、多いんじゃないかと思います。
後藤:結構、人を撮るときもクルマを撮るときも、(周辺を)減光してしまうんですけど……絵が締まるといいますか、なんとなくの感覚なんですけどね。
小林:そういう写真もあってもいいし、前回も言ったように写真はあくまで「使い方」次第なので、編集の人がそういう写真を求めているなら割り切れるけど……。ただ、僕らのようにシリーズのオフィシャルフォトグラファーとして写真を納品するのであれば、何もしない方がいい気がしますね。もちろん、写真の雰囲気づくりのためにそれをやっている方を否定はしません。あくまでもオフィシャルな写真としてはナシじゃないかな、という個人的な意見です。
※ここでautosport webでも写真をお願いしているフォトグラファーの小笠原貴士氏が通りかかる。
小林:小笠原さん、ビネットってやったりする?
小笠原:やったりやらなかったりですね。(クライアントに)お願いされたらやりますし、されなかったらやらないです。
後藤:あくまでもリクエストを受けてやっている、ということですね。
小笠原:そうです。ビネットって、見せたくないものを見えないようにするから、絵としてうまく見えてしまうんですよね。見る人の目線を、見せたいものだけに集中させるから。でも、空が暗くなっていたりするのは、よくよく考えてみればおかしい話なわけで。いま流行りでそれが良く見えていたりするけど、長い目でみたら、加工なしの写真が圧倒的にいいと思います。
小林:僕も50年近く撮っているけど、まったくそのとおりだと思う。
小笠原:いまは(加工している写真に)負けているような感じがするかもしれないけど、時間が経ってみたら普通の写真の方が断然いいと思いますね。
後藤:なるほど~。
小林:やっぱり僕なんかはね、写真を見てサーキットに来た人たちが、同じように見える写真を撮りたいし、伝えたいわけ。もちろんプロなので、需要があれば(加工は)やるけれども、やっぱりリアルなところを見て欲しいという思いが強い。
後藤:まずはきちんと撮ることが重要であって、ミスしてしまった部分を加工でどうにかしようとするのは違うぞ、と。
小林:それをやっちゃうと写真が上手にならないからね。まずはしっかりリアルに撮っておけば、あとで加工はできるわけだし。だから、後藤さんの写真を見るにあたっては、撮ったそのままの写真を見た方がちゃんと評価できる、ということなんです。つまり『スッピンで来てよ』っていう(笑)。
後藤:スッピン写真ですね、分かりました!
■引きの流し撮りで味わう『スルメ感』
──ビネット論争でだいぶ盛り上がってしまいました。では最後の1枚は流し撮りのこちら。なかなかユニークな画角かなと思います。
後藤:これはですね、スタンドを絡めて撮りたかったんですけど……。
小林:もうちょっと左までカメラを振りたいところだけど、(コースサイドに)フェンスができちゃったから振れないんですよね。
後藤:そうなんです。だからその手前で捉えて、ギリギリスタンドが入るくらいの構図でしか撮れなかったんです。この日はスタンドを入れて撮るって決めて現地に行ったんですけど、そしたら予想外に白いテントが建っていて、イメージと違う! ってなって(笑)。じゃあ思いっきりスローにして、テントじゃないことにしてしまえ! という意図で撮りましたけど、こうして見るとテントはテントですね……。
──これはSSが1/80、シャッター速度優先ですね。
後藤:テントがなければ、このSSでも充分いい感じになったんじゃないかなぁと。これは先生にアドバイスをいただくつもりで持ってきました。
小林:あまり見ない、不思議な切り方だよね。あんまり、僕らは撮らないような写真だなぁ。
※3人でしばし、写真を眺める。
──……なんでしょう、じっくり見続けていると、だんだん良く見えてきました。
小林:うん、僕もいまそう思ってた。自分では撮らないけど、なんか良い。
後藤:見れば見るほど、好きになっていく?(笑)
小林:噛めば噛むほど……みたいな『スルメ感』があるなぁ(笑)。
──これ、雑誌だったら右側にタイトル置いて、下のグラベルの上に本文が入りそうですし、なんか“座り”がいいんですよね。スタンド、テント、クルマが全部左側にあって、重心がそろっているというか。
後藤:あぁ、テントとかガードレールとか、「線」がいっぱいあるからいいんですかね?
小林:広めの絵の場合、クルマをどこに置くかで写真の印象ってすごく変わってくるんですよ。この背景だとしても、クルマが右側にあればまた印象が違うだろうし。基本的には、クルマの前が空いている方がノーマル。でも、クルマが前に来ているのもそれはそれでアリだと思うし。
後藤:なんか、クルマの後ろが空いている方が、速く見えるかなと思って。
小林:おお~、確かに。なるほど。そのあたりの感性は、やっぱり撮る人によって違うわけで、それはすごい大事なことですよ。僕らが撮らないような写真を後藤さんが撮ってくれれば、JRPとしてもバリエーションが広がるわけだから。
後藤:ありがとうございます! 次回も頑張ります!
★今回の教え
・“切り方”で表現の幅が増える
・ごまかすためのビネットはダメ!
・クルマの“置き場所”を考えよ
■Profileごとう ゆうき2019年よりレースアンバサダーとして活躍。写真を撮られているうちに撮ることにハマり、フォトグラファーの道へ。Nikonが展開するスポーツファンのための推し活写真サービス『フォトサポ』アンバサダー。2025年からはスーパーフォーミュラの公式カメラアシスタントを務めるほか、KYOJO CUPでも公式フォトグラファーとして活動する。愛称は「きのちゃん」。愛知県出身。https://www.kinochan.fun/
こばやし みのる日本大学藝術学部写真学科を卒業後、二玄社CAR GRAPHIC写真部に入社。クルマおよびモータースポーツ写真を中心に撮影を続け、やがてフリーランスに。2009年より日本レース写真家協会(JRPA)会長。現在、スーパーGTおよびスーパーフォーミュラで、オフィシャルフォトグラファーを務める。1955年生まれ、神奈川県出身。https://minoru-kobayashi.com/
[オートスポーツweb 2025年07月03日]
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