2022年7月15日に発表された新型クラウン。販売店にはのぼりや垂れ幕が掲げられ、新型車の登場を華々しく伝えている。
クロスオーバーとして生まれ変わったクラウンに対して、販売現場ではどのような反応が見られるのだろうか。注文状況やユーザーの声など、販売現場の様子をレポートする。
「自信大いにアリ!! でも…」新型クラウンクロスオーバー 販売現場の実情と今後の課題
文/佐々木亘、写真/TOYOTA、奥隅圭之、ベストカーWeb編集部
クロスオーバーが登場したクラウンに対しどう思う?
16代目ではじめてクロスオーバー車として登場することになった新型クラウン
一般ユーザーや我々メディアを含め、新型クラウンがセダンから離れることに対して、賛否両論があった。クラウンが変わるということに対して、一種のアレルギー反応のようなものが、皆にあったともいえるだろう。
こうした状況に対して、販売店の営業マンを筆頭にしたスタッフの中からは、「セダンではなくなるクラウン」に対して、マイナスな反応は少なかった。筆者が耳にする限りでは、どのようなクルマになるのか不安だという声は多かったが、それはクラウンが変わることに対する不安ではなく、売れるかどうかに対する不安であったと思う。新しいビジョンを持ったクラウンへの期待は、販売現場からの方が多かったのだ。
実際にクラウンが発表されると、市場では肯定派が増え、カッコいい、期待以上という声が多く聞こえてくる。販売現場でも、「自信をもっておススメできるクルマ」として認知されており、その評価は高いままだ。
クラウンは間違いなく売れるクルマであり、トヨタの販売における核となる存在。クラウン販売に対して、前向きにとらえる声が、販売店には溢れている。
注文状況は好調か? それとも・・・?
では、注文状況はどうだろう。新型モデルということで、その動きは好調そのものと考えたいところだが、販売店が想定していたスタートが切れていない。その原因は2つの点にある。
一つは、車両の生産が間に合っていないという問題。7月15日に発表したはいいが、生産の調整が、まだついていない。メーカーへの車両オーダーもできない状態で、各販売店では受けた注文を順番に並べ、来るべきオーダー開始日を待っている状態だ。
販売店には試乗車はおろか展示車両すらない状態。せっかく変化し、クルマを見せながら商談するのがベストなクルマなのに、現物がないというのは、商談の大きな足かせとなっているだろう。
もう一つは、クラウンからスタートしたトヨタの販売方針転換だ。これまでレクサスでは当たり前だった「値引きゼロ」の売り方を、トヨタでも導入した。その一番手になったのがクラウンだ。
車両本体価格およびメーカーオプションに対して「値引き」という項目を作り、そこに金額を入れることは出来ない(厳密にいえば金額は入れられるが、オーダーを通さないようだ)。新型クラウンであっても数パーセントの値引きは存在していたこれまでの売り方から、大きく方向を変えた。
多くの人に、平等な価値でクラウンが届くということを考えると、筆者はこの方式に賛成だ。筆者がレクサスの営業畑で育ってきたこともあるが、クルマの値引きありきでの販売文化はそろそろやめたほうが良い。
現車がない、オーダーできない、そして値引きがないという、これまでの販売とは大きく方向性の違うクラウンの販売。まずは生産日程が明確になり、正式な注文(オーダー)を受けられることが確定してから、クラウンの大きな販売の波がくることになるだろう。
新車が売りにくい状況でクラウンの投入はどう思う?
多くの車種でモデルチェンジや一部改良を迎えているトヨタ。春先から8月の終わりごろまでは、新車の注文を受けられるクルマがほとんどなく、営業マンは「売るクルマがない」と頭を抱えている。
さらに、ランクル300の注文停止、ハリアーの受注取消など、新車注文の環境に対する不安は多い。クルマを頼んでも手元に届くのは1年以上先であり、営業マンの手元から納車できない新車注文が減ることはないのだ。
新型モデルが登場しても、すぐにオーダー枠はいっぱいになり、次期生産の目途が立たない。そのまま注文を受け続ける今の体制に悲鳴を上げる営業マンも多い。次々に新しいクルマを登場させるよりも、既存車種の生産量安定化を望む声も多いのだ。
クラウンよりも、カローラクロス、アルファード、ノア・ヴォクシーを作ってほしいという声も数多く出てきている。メーカーのやりたいことと、販売店が求めるものを、しっかりとすり合わせて、これからのトヨタ全体の活動を考えて欲しい。
クラウンは近年発表されたクルマの中で、最も革新的であり、期待の持てるクルマだ。それだけに、難しさを増す生産調整の問題と販売現場の悩みをいかにして解消するかが、今後の課題となってくる。
クラウンとともに、メーカーとしてのトヨタ、そしてトヨタ販売店が変貌を遂げ、この苦境であっても、やはりトヨタは凄かったと評価できる未来を心待ちにしたい。
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