この記事をまとめると
■ポルシェのフル電動モデルとなるカイエン・エレクトリックに「PEC東京」で試乗した
【試乗】EVのポルシェなんて……を根底から覆した! カイエンElectricでさらなる運動性能を追求したポルシェの技術力に驚愕
■ターボ・エレクトリックの1156馬力・1500Nmが生み出す加速を体感
■2.6トンとは思えない俊敏さと圧倒的性能にレシングドライバーも舌を巻いた
カイエンの最強モデルもいまやフル電動
ポルシェのSUVとして2002年に登場したカイエンは、高性能SUVという新たなカテゴリーを切り拓いた。その最新世代として、ついにフル電動モデル「カイエン・エレクトリック」が姿を現した。ラインアップは標準モデル、カイエン・エレクトリックS、そして最上級となるカイエンターボ・エレクトリックが用意される。今回試乗したのは、その頂点に立つターボモデルである。
試乗会場は千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(PEC東京)。ここは単なる試乗施設ではない。一周約2.1kmのハンドリングトラックに加え、高低差を生かしたダイナミックエリアや低μ路、キックプレート、オフロードコースなどを備え、世界中のポルシェ開発現場を凝縮したような総合試験施設となっている。
そのハンドリングトラックには、ニュルブルクリンク北コースのカルーセルやラグナセカ名物コークスクリューをモチーフにした区間が再現されており、日本にいながら世界有数のサーキットを疑似体験できる(コーナーの向きは実際のものとは逆だが)。サーキット以外でこれほど車両性能を限界近くまで確認できる試乗環境は国内でも極めて珍しい。
試乗車のカイエンターボ・エレクトリックは、一見すると従来型カイエンの正常進化版に映る。しかし、細部を見ると、その印象は大きく変わる。丸みを帯びたフェンダーと低く構えたキャビン、911を連想させるルーフライン、水平基調のリヤデザインなど、ポルシェらしいスポーツカーのDNAが巧みに取り込まれている。SUVでありながら重厚感だけではなく、スピード感を漂わせるプロポーションにまとめられている点が印象的だ。試乗車はSUVボディだが、より911を意識したクーペボディも存在する。
このスタイリングを手がけた中心人物のひとりが、日本人デザイナーの山本尚一氏であることも興味深い。 空力性能にも徹底して手が入っている。フロントアンダーボディやアクティブエアフラップ、ルーフスポイラーに加えリヤエンド両サイドには高速域で展開するエアロデバイスを備え、走行状況に応じて空気抵抗とダウンフォースを最適化している。ル・マン24時間レースを制したポルシェ917ロングテールなど、超高速耐久レースで培われた知見が市販SUVへ惜しみなく投入されているわけだ。
ちなみに1989年にル・マン24時間レースで筆者が搭乗したポルシェ962Cもロングテール仕様で、長さ6kmに及ぶ長い直線のユノディエールにおいて375km/hの最高速を引き出せていた。
ポルシェ車開発の聖地であるバイザッハで風洞試験を繰り返し、SUVとしては驚異的なCd値0.25を達成している。ボディサイズや最低地上高を考えれば、この数値だけでも開発陣の執念が伝わってくるのだ。
パワートレインは前後2基の永久磁石同期モーターを搭載し、113kWhバッテリーと組み合わせる。ターボエレクトリックではローンチコントロール作動時に最大850kW(1156馬力)、最大1500Nmを発生。0-100km/h加速は2.5秒(これはポルシェのスーパースポーツ918ハイブリッドの2.6秒を凌ぎポルシェ車歴代最速)、最高速度は260km/hという数字が並ぶ。
車両重量は約2.6トンに達し、通常なら俊敏さとは無縁と思われる重量級SUVなのだが、ポルシェは、この常識を覆そうとしている。
運転席に乗り込むと、視界には湾曲したデジタルメーターパネルが広がる。往年の911を思わせるメーターナセルデザインを現代的に解釈したもので、ポルシェらしい世界観を残している。センターディスプレイや助手席専用ディスプレイまで備えた最新世代のコクピットは機能性が高く、質感も申し分ない。一方で日本語表示の文字サイズはやや小さく、走行中の視認性には改善の余地を感じた。
システムを起動し、デフォルトのノーマルモードでハンドリング路にコースイン。アクセルを軽く踏み込んだ瞬間、2.6トンという数字が頭から消えた。EVらしい滑らかな発進ではあるが、踏み増した瞬間から強烈な加速Gが背中を容赦なくシートへ押し付ける。アクセルレスポンスにタイムラグは皆無。操作と同時に最大トルクが立ち上がる感覚は従来のターボエンジンとはまったく異なる世界だ。ともすれば鞭打ちになってしまいかねないほど瞬発力は強力で、脳がしばらく目眩を感じさせる。
最初のコーナーへステアリングを切り込むと、このクルマの本質が見えてくる。一般的なSUVなら、これほどの車重ではロールが先に立ち、荷重移動を待ってからノーズが旋回へ入っていく。しかしカイエンターボ・エレクトリックは違う。ステアリング操作とほぼ同時にフロントタイヤが向きを変え、ドライバーのイメージどおりにノーズがイン側へ吸い込まれていく。その理由は新開発のアクティブシャシー制御にある。
試乗車にはPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)に加え、Porsche Active Rideを採用。4輪それぞれを独立して制御することでロールやピッチを積極的に打ち消し、車体姿勢を常に最適化している。その効果は想像以上だった。
コンフォートモードへ切り替えると、コーナリング中には車体がわずかにコーナー内側へ傾く。通常のクルマとは逆方向へ荷重が移動するため、ドライバーは一瞬違和感を覚える。しかし、その姿勢制御によって内輪の接地性が高まり、ステアリングレスポンスはさらに鋭くなる。ドライバー以外の搭乗者は快適に感じているはずだ。
それはロールを抑えるだけではない。ロールそのものを積極的に利用しながらタイヤの接地荷重を最適化しているため、2.6トンのSUVとは思えないほど軽快に旋回していくのだ。ただし、この特性はスポーツドライビングには魅力的でも、街なかではやや過敏に感じる場面もある。自然な操縦感覚という意味ではノーマルモードがもっとも完成度が高く、多くのユーザーにとって扱いやすい設定だといえる。
スポーツモードへ切り替えるとキャラクターは一変する。車高はさらに下がり、エアサスペンションの減衰力も高まり、アクセルレスポンスも鋭さを増す。同時に室内へ流れるポルシェ・エレクトリック・スポーツサウンドがドライバーの感性を刺激する。
SUVというより911に近い。そんな印象を受けるほど車体の動きが引き締まり、旋回姿勢は低く、限界域でも姿勢変化は極めて少ない。PEC東京名物のカルーセルへ進入する。大きなバンクへ車体を落とし込んでもサスペンションは落ち着いた動きを保ち、4輪は確実に路面を捉え続ける。続くコークスクリューでは急激な高低差によって前後左右へ大きな荷重移動が発生するが、姿勢変化は驚くほど穏やかだ。床下に搭載された113kWhバッテリーによる低重心化も、この安定感へ大きく貢献している。
初代カイエンは、高速旋回時に重量感が顔を出す場面も少なくなかった。しかしエレクトリックでは、その弱点は完全に姿を消した。ライントレースは正確で、修正舵も最小限。SUVであることを忘れさせる完成度と言っていい。
速いだけでなく曲がる・止まるも驚異的
続いてダイナミックエリアでゼロ発進加速を試す。
ノーマルモードでもアクセルを深く踏み込んだ瞬間、全身がシートバックへ叩き付けられる。加速というより衝撃だ。頭部はヘッドレストへ押し戻され、視界は一瞬にして狭まる。わずかな距離で100km/hを超え、ブレーキングポイントへ到達してしまう。しかし、恐ろしいのは加速だけではない。ブレーキペダルを強く踏み込むと最大600kWの回生ブレーキとフロント480mm径・10ピストンブレーキシステムが連携し、2.6トンという質量を感じさせない減速度で停止する。
回生ブレーキ特有の違和感もほとんどない。ハンドリング路での制動力の立ち上がりは極めて自然で、最後までリニアに減速していく。この完成度はポルシェらしいブレーキフィールそのものだった。
ドライブモードをスポーツプラスへ切り替えると車高はさらに低く構えシャシー全体が戦闘態勢へ移行する。左足でブレーキを強く踏み込みアクセルペダルを床まで踏み切る。メーターパネルには「Launch Control」の表示が現れ、スタンバイ完了を知らせる。
ブレーキを離した瞬間だった。それまで体験したどの市販車とも異なる世界が始まる。車体はホイールスピンひとつ見せず、4輪が路面へ吸い付くように発進する。850kW(1156馬力)、1500Nmという膨大な出力が一気に解き放たれる。タイヤが空転することも姿勢が乱れることもない。ただ一直線に路面を蹴り出し、猛烈な勢いで景色を後方へ押し流していく。
0-100km/h加速は2.5秒。この数字だけでも十分衝撃的だが、実際に体感すると数字以上のインパクトがある。背中はシートへ押し込まれ、両腕はステアリングから引き離されそうになる。頭部には強烈な加速Gが加わり一瞬視界が狭くなるほどだ。
これまで数多くのレーシングカーやスーパーカーを操ってきたが、この加速感は別次元だった。エンジン回転の立ち上がりを待つ必要はなく、アクセル操作と同時に最大トルクが立ち上がるEVならの特性が人間の感覚を置き去りにしてしまう。
ローンチコントロールではブレーキングポイントまでの到達速度も大きく伸びる。ノーマルモードでは約110km/h前後だった速度が、スポーツプラスでは120km/hを大きく超えていた。わずか数百メートルの加速でも、鋭さがまったく異なることを物語っている。
その速度域からフルブレーキングを行っても、車体は安定したまま停止する。最大600kWの回生ブレーキと480mm径・10ピストンブレーキシステムは、2.6トンという重量を完全に忘れさせる制動力を発揮した。ただ、何度も繰り返すのは体幹的に無理。多くの人がジェット戦闘機に乗ったように一回で脳酔いしてしまうはずだ。
続いてスラロームへ移る。標準装備されるリヤアクスルステアリングは40~60km/h以下で逆位相、80km/h以上では同位相へ切り替わる。今回のスラローム速度域はちょうど切り替え付近だったこともあり、前半は軽快にノーズが向きを変える一方、速度が乗る後半ではフロントタイヤが限界へ近づき、アンダーステア傾向を示した。もっとも、それは限界域で積極的に攻め込んだ結果であり、公道ではまず経験しない領域である。
一方、アクセルを踏み込んでいくと最初は後輪モーターが積極的に駆動を受け持ち車体にヨーを発生させる。状況によってはわずかにテールが向きを変え、後輪主体で旋回姿勢を整えていく制御も感じられた。単にパワーを前後へ配分するだけではなく、ドライバーのステアリング操作へ自然に応える四輪駆動制御が組み込まれていることが分かった。
カイエン ターボ エレクトリックは、SUVでありながらスポーツカーの俊敏さを実現した。しかもWLTPで600kmを超える航続距離を確保し、日常での実用性も高い。電動化によって性能と使い勝手を高い次元で両立させた完成度は、ポルシェらしい技術力の結晶といえる。
しかし、その一方で考えさせられる部分もあった。この性能を一般道で使い切れる場面は、日本ではほぼ存在しない。アクセルを深く踏み込めば一瞬で法定速度を超えてしまう。誰でも簡単に0-100km/h加速2.5秒という加速性能を引き出せてしまうことは、技術的には称賛に値するが、安全という観点では慎重に向き合う必要もあるだろう。
だからこそ、このクルマの真価はポルシェ・エクスペリエンスセンター東京のような環境で体験してほしい。限界性能を一度知れば、公道で無理をする気もちは自然と消えるはずだ。
電動化は、これまで不可能だった性能を現実のものにした。しかし、性能競争に終わりが見えないこともまた事実である。カイエンターボ・エレクトリックは、ポルシェ史上最高レベルの動力性能を実現したSUVだ。その圧倒的な完成度に感心すると同時に「これほどの動力性能が本当に必要なのか」という問いを投げかける1台でもあった。それこそが、このクルマがもっとも印象深く残したメッセージだった。
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