ちょっとだけ世に出るのが早すぎた!? 今では売れ筋となっていても、10年前はまだ人気に火が付いていなかったというジャンルやカテゴリーは多い。近年ではSUVや軽スーパーハイトワゴンなどがまさにそれに当てはまる。
人気ジャンルが確立された背景には、その前夜に新たなコンセプトに挑戦したクルマたちの姿がある。残念ながら当時はヒットとまではいかず、日の目を見なかったものの、今改めて見れば「売れそうな要素」が詰まっている、そんな時代の先を行き過ぎたクルマたちを紹介していきたい。
日産とのシナジー効果はあるか!? 虎の子・新型アウトランダーが三菱の未来を切り開く
文/渡辺陽一郎 写真/HONDA、MITSUBISHI、NISSAN、TOYOTA
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■三菱 ミニカトッポ/1990年発売
1990年登場の三菱 ミニカトッポ。今では人気の軽ハイトワゴンの先駆者といえる
今は軽自動車が人気のカテゴリーで、2020年に新車として売られたクルマの37%を占めた。軽乗用車にかぎると、販売総数の約80%を全高が1600mm以上のハイトワゴンと、1700mmを超えるスーパーハイトワゴンが占める。車内の広い軽自動車が売れ筋だ。
背の高い軽自動車の直接のルーツは、1993年発売の初代ワゴンRと2003年の初代タントだが、最初に注目されたのは1990年に登場した初代ミニカトッポだった。
1990年1月に軽自動車の規格が改訂され、全長は3300mm(現在は3400mm)、エンジン排気量はそれまでの550ccから660ccに増やされた。ミニカトッポは新規格の採用に合わせて発売されている。
ベースは6代目ミニカだが、ボディは大幅に異なる。全高はベーシックなグレードでも1695mmで、Q2-4は1745mmと高い。今のeKスペースやタントと同程度だ。
後席側のドアを装着しない3ドアボディだが、左側のドアは右側よりも長く、後席の乗降性を向上させていた。運転席側は一般的な長さだから開閉しやすい。
今の背の高いクルマと明らかに異なるのは、前後席の着座位置だ。今の背の高い車種は、カテゴリーを問わず天井に合わせて着座位置も高い。そのために座った時に足が前方へ伸びず、軽自動車の短い室内長でも窮屈に感じない。
しかし、ミニカトッポの着座位置は、ベース車のミニカと同等だ。前後席の足元空間もミニカと大差ない。その替わり頭上には広いスペースがある。サイドウインドウの下端は低く天井だけが高いから、外観は個性的でウインドウ面積も広く、車内の開放感は抜群だった。
運転席の上部には、高い天井を生かして収納ボックスを装着した。天井や車内の側面に、棚やネットを付けることも可能だ。これらの機能は今日のウェイクなど、背の高い軽自動車にも見られる。
リアゲートは横開き式で、リアウインドウだけを上下に開閉することも可能だ。この機能は今日のセレナなどにも採用される。ミニカトッポは人気を高め、1993年には2代目にフルモデルチェンジされた。1998年には新規格に対応して、トッポBJに発展している。
この後、トッポBJは2004年に生産を終えたが、2008年にマイナーチェンジを行い、トッポの名称で異例の復活を遂げた。
開発者は「最近はスーパーハイトワゴンが増えて、お客様のニーズも高まったから復活させた。地球温暖化の影響で積雪量が増えており、ルーフパネルは以前のトッポBJよりも強化している」と説明された。
■ホンダ S-MX/1996年発売
まるでステップワゴンを切り詰めたようなホンダ S-MX
最近はルーミーの売れ行きが絶好調だ。姉妹車のタンクを廃止した影響もあり、2021年1月の登録台数は1万台を超えた。ルーミーのようなボディが短くて背の高いコンパクトカーとしては、1996年に発売されたS-MXが思い出される。プラットフォームを含めて、ステップワゴンを切り詰めたようなクルマであった。
S-MXの全長は3950mm、全幅は1695mmだからフィットと同程度だが、全高は1750mmと高い。ボディは左右非対称で、左側は前後にドアがあり、右側は前席のみだ。エンジンは直列4気筒2Lを搭載した。
ステップワゴンを2列シートに変更したようなクルマだから、後席を含めて車内は広い。後席には300mmのスライド機能が備わり、4名で乗車して多量の荷物も積めた。シートは前後席ともにベンチタイプで、前後席をリクライニングして連結させると、車内をベッドのようにアレンジできた。
シートは柔らかく寝心地は良かったが、座席として使うと着座姿勢が安定しない。ドライバーは運転しにくく感じたが、車内の造りは実用的だ。後席の右側にはドアが装着されないため、カップホルダー、トレイ、フタの付いた収納ボックスなどが備わり、今日の多彩な収納設備を先取りしていた。
1990年代の中盤はミニバンの全盛期で、2列シートのS-MXは1代限りで終了したが、その後に訪れるハイトワゴンの機能を備えていた。車内で就寝することを考えた今日のフリードプラスとも共通性が見られる。
■日産 ラシーン/1994年発売
今人気の高いコンパクトSUVの先駆けともいえる日産 ラシーン
今はSUVの人気が高い。2000年代の新車販売に占めるSUV比率は、小型/普通乗用車の7%程度だったが、今は約20%に達する。特にキックスのような街中で運転しやすく割安なコンパクトSUVが注目されている。
このカテゴリーの先駆けになったのが、1994年に発売されたラシーンだ。ボディサイズは、中級グレードになるタイプIIの場合、全長が4115mmで全幅は1695mmだ。全高は1515mmだから立体駐車場も使いやすい。
外観はSUVらしく直線基調で、当時の流行に沿ってフロントマスクのグリルガード、背面スペアタイヤキャリア、電動ガラスサンルーフも用意された。リアゲートは上下に分割して開き、狭い場所での開閉性も優れていた。
ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が2430mmと短いこともあって、後席の足元空間が狭く、フルモデルチェンジは受けずに終わった。
ファッション性に重点を置いたので、Be-1やパオのような車種と同列に見られやすいが、ラシーンは当時のSUVのデザイン要素を小さなボディに凝縮させている。今に通じるSUV時代の幕開けを象徴するクルマであった。
■ホンダ クロスロード/2007年発売
ラシーンと同じくコンパクトSUVのはしりとなったホンダ クロスロード
実用的なコンパクトSUVでは、2007年に発売されたクロスロードが進歩的だった。ボディサイズは全長が4285mm、全幅は1755mmに収まるが、プラットフォームはコンパクトミニバンのストリームと共通でホイールベースも2700mmと長い。
そのために荷室に3列目のシートを備える7人乗りであった。3列目の足元空間をフラットに仕上げるなど車内の造りにも気を配り、運転のしやすさと優れた使い勝手を両立させている。
外観は直線基調だからラシーンに似ているが、コンパクトな割に存在感が強い。ボディの四隅が分かりやすく視界も良好だ。エンジンは直列4気筒の1.8Lと2Lで、動力性能にも余裕があった。
コンパクトなボディと広くて使いやすい居住空間・荷室の両立は、2013年に発売されたヴェゼルに受け継がれている。もともとSUVの機能は、ミニバンとセダン&ワゴンの中間に位置するから実用的で、そこにカッコ良さも加わり人気を高めた。クロスロードはSUVの特徴を明確に表現していた。
■トヨタ ラウム/1997年発売
トヨタ ラウム。その機能は後進の車たちにしっかりと受け継がれている
1997年に発売された初代トヨタ ラウムは、ドライバーから乗員まで、誰でも使いやすいクルマ造りを追求して開発された。全長が4025mm、全幅は1685mmのボディは、水平基調で視界が良い。最小回転半径も5.2mに収まった。
車内に入るとATレバーがコラム式だから、前席の周辺に充分な空間がある。降車しないで前後席間を移動できた。ホイールベースが2520mmと長いから後席の足元空間も広く、後席側のドアはスライド式だから乗降性も良い。
着座位置が適度だから乗降時にも腰の移動量が少なく、高齢者が後席に座る用途にも適していた。リアゲートは横開き式で、狭い場所でも荷物を出し入れしやすい。
これらの機能は、タントのような軽自動車のスーパーハイトワゴン、生産を終えたポルテ&スペイドやルーミーのような背の高いコンパクトカーに受け継がれている。
* * *
以上のように、ここで取り上げた車種はいずれも過去のクルマだが、改めて振り返ると今日にも通用する優れた価値を備えていたことに気付く。
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