スバルのアイコン的存在でもあるスポーツワゴン「レヴォーグSTIスポーツ」。その専用アイテムである「ドライモードセレクト」は、ボタン操作ひとつで高級車からスポーツカーまで乗り味が変化する「キャラ変」が大きな特徴のひとつだ。
その実現のカギとなるのが、ZF製電子制御ダンパー(CDCダンパー)だ。その役割が実感できるZF主催のCDCダンパー取材会に参加し、その仕組みと可能性に迫った。
文/大音安弘、写真/ZF、大音安弘
[gallink]
■1915年創業の機械メーカーが21世紀の自動車の足元を支える
ZF社は1915年にドイツで創業した機械メーカー。車両の側面には「See, think, act」のスローガンが
ZF社は、1915年にドイツで創業した老舗のギア及びトランスミッションメーカーだ。有名な飛行船「ツェッペリン」のギアも同社が製造していたという。現代でも多くの欧州車にZF製の多段ATが搭載されていることは有名だ。
今や、ZFは多くの自動車部品を手掛ける総合サプライヤーのひとつに成長。
傘下に、「レムフォルダー」、「ザックス」、「ハンセン」、「TRW」、「ワブコ」といった自動車部品ブランドを傘下に収めており、世界のグループ総従業員は、15万人にも及ぶというから驚きだ。ZFだけでシャシー回りの技術が構築可能になっているほどだ。
近年では、ソフトウェアやコネクティビティ関連への投資も増やしており、開発に力を入れている。
現代のZFの取り組みを凝縮したスローガンが「See, think, act(見て、考えて、動かす)」。
具体的には、レーダーやカメラなどのセンシング、統合ECU、ダンパーやステアリングシステム、Eアクセルなどのアクチュエーターに分けられる。モーター、ダンパー、ステアリング、ブレーキ、ECUなどを手掛けているので、電池があれば、EVのシャシーが構成できるほどなのだ。
ZF製電子制御ダンパー(CDCダンパー)は制御システムを含めて量産車に提供。2015年以降から第2世代へと進化している
CDCダンパー自体は、ザックスが1997年より量産車に提供を始めており、制御システムを含めて提供を行ってきた。2015年以降から第2世代となるCDCダンパーに進化しており、レヴォーグに搭載されるのも、新生代製品のひとつである「CDCevo」と呼ばれるものだ。
ZFによれば、CDCダンパーのメリットは、タイヤの接地面圧を最適にコントロールすることで、運動性能を維持しつつ、常に快適な乗り心地を提供できる点にあるという。このため、重量増となるハイブリッドカーや電気自動車でも、その両立が実現できるため、ニーズの拡大が期待されているのだ。
■レヴォーグSTIスポーツでZFダンパーを体験
ダンパーの効果が体感できるようZFが独自の制御を加えたレヴォーグSTIスポーツが用意された
レヴォーグSTIスポーツに採用される「CDCevoダンパー」の構造は、通常のダンパーにバルブ制御用のアクチュエーターとGセンサーを装備する。ダンパー内部には、コンベンショナルなダンパー同様にオイルが注入されており、バルブの開閉動作により、オイルの流速をコントロールし、減衰力を変化させている。
車両側には6軸のスラストセンサーを備えたECUを装備しており、ECU側でバネ上の車体の動きを、ダンパーのGセンサーからバネ下の動きをそれぞれ収集。
さらに車両側からも、CANシステムを通じて、車速やステアリング角度などの情報を得ることで、1秒間に100回もの演算を行い、車両の安定を保つために、4輪独自に減衰力を変化させる。もちろん、作動は電気となるため、電動車時代に向けて、電力消費量の削減も考慮した開発を行っているそうだ。
車内のセンターコンソールからモードセレクト
クローズドコースでの試乗では、DCDダンパーの性能を理解するために、レヴォーグSTIスポーツを使い、ZFが独自の制御を加えた車両が用意された。
特別な制御の内容は、ダンパーが最もソフトな状態「コンフォートプラス」と最もハードな状態となる「スポーツプラス」モードの2種類だ。これは最適化されたレヴォーグSTIスポーツのセッティングがベストだが、本来のダンパーの性能を理解するために、極端なダンパー特性にされている。
まずは、制御の重要性を知るべく、ダンパー設定を固定したセッティングで走りを体験。ソフトな「コンフォートプラス」は、まるで絨毯のような柔らかさだが、スラロームでは大きくローリングをし、コーナリングでは外に膨らみやすくなる。ブレーキングではノーズダイブも発生。
極端な言い方をすれば、大昔の国産高級車のような乗り味だ。一方で、ハードな「スポーツプラス」では、スラロームやコーナーでは機敏な動きを見せるが、ダンパーが、あまり衝撃を吸収しないため、ドタバタした動きとなる。またコーナリングで限界を超えると、不安定な動きにも繋がる。
まるで足回りを固めることだけを良しとした昔の改造車のようだ。もっとも運動性能の高いレヴォーグだけに、違和感ある動きでもコントロールはできるが、いずれも気持ちよい走りとはかけ離れていた。
ダンパーそのものではなく、制御方法を変えるだけで乗り味に大きな変化が
そこにバルブ制御が加わるとどうなるか。クルマの姿勢は恐ろしく安定する。
ダンパーの減衰力が異なるので進入スピードには差が出るが、コーナリング中やブレーキング時の姿勢は、「コンフォートプラス」も「スポーツプラス」のいずれもタイヤの接地が安定しているので、ステアリングやアクセル操作も最適な部分を感じ取りながらコントロールできるので、運転もし易い。
この柔軟な対応ができるから、好みに合わせてモードを変えて運転を楽しむことができる。つまり、レヴォーグSTIスポーツのキャラ変も、このようなシステムがあってこそ。
もちろん、DCDダンパーのメリットは、乗り心地や走りだけではない。例えば、ラゲッジスペースに重量物を積んで走る際の路面の凹凸も綺麗にいなしてくれる。
コンベンショナルなダンパーだと、減衰力は伸びも縮みも、減衰力の曲線に合わせた動きしかできないので、瞬時に状況によっては後輪の触れにも繋がる。つまり如何なる積載状況でも、車両姿勢を一定に保つこともできるのも強みなのだ。
最後に、郊外のワインディングを含めた一般道路を走らせてもらったが、ソフトでもハードでも違和感がない走りが行えた。
特にスポーティなレヴォーグのキャラクターとのマッチングは、「スポーツプラス」が良く、改めてレヴォーグの素性の高さも実感できた。ダンパーの細やかな制御の恩恵で、走りに違和感は全くないので、レヴォーグにもダンパーのみの調整機構があっても面白いだろう。
■開発で重視するのは『人による感覚』
どんなに電子制御が発達しようと、『乗ってみた感覚』が開発の要となる。「見て、考えて、動かす」が実践されているというわけだ
ZFのDCDダンパーの開発は、今もザックスの開発部隊が担っているという。現在、ザックスのブランド名は、アフター品の一部しか使っていないというが、その技術はZF名になってもしっかりと受け継がれているので、高い完成度と信頼性を持ち合わせるのも当然といえよう。
開発段階では、シミュレーションなどの活用も増えているが、仕上げでは必ず実装テストを行い、人による感覚を重視した開発を続けているそうだ。
レヴォーグSTIスポーツの「キャラ変」機能は、新型WRX S4 STIスポーツRにも受け継がれている。ダンパーひとつで走りが劇的に変化できるDCDダンパーは、1台のクルマを多目的で楽しむ価値も提供してくれるだけでなく、より状況に合わせた自分好みの足のセッティングが選べる可能性も示してくれた。
既に国産他名でも、DCDダンパーを採用しているところもあり、今後も採用車は増えていくと思われる。DCDダンパーと新車のコラボ―レーションが、我々の予想を超える新たな走りの質感を創造してくれることを期待したい。
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