日本の課税水準の国際比較
インバウンド(訪日外国人客)の急増により、各地でオーバーツーリズム(観光公害)が問題視されている。これに対応するため、さまざまな対策案が登場している。
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最近、X(旧ツイッター)上で注目を集めたのが
「英国並みに入国税3万円程度をとるべき」
とする経済評論家の提言だ。入国税とは、ある国に入国する外国人に対して課される税金のことを指す。観光税や渡航認証料、ビザ取得費用、空港税などの形式をとることが多く、課税対象や徴収方法は国によって異なる。
この発言では、旅行者数を年間3000万人の「キャップ制(ある対象の数や量に上限(キャップ)を設けて制限する制度)」にすべきという主張も添えられていた。観光地の過密を緩和する狙いがある。また、インバウンド政策は人数ではなく「消費額」を目標にすべきという意見も提示された。あわせて、観光需要が落ち着けば外国人ドライバーの大量受け入れも不要になると指摘していた。
ただし、提言の前提には誤解もある。英国の入国税は実際には3万円ではない。ETA(電子渡航認証)の取得費用は約16ポンド(約3100円)にすぎない。加えて空港税があるが、これは国籍に関係なく航空券代金に上乗せされて徴収される。料金は移動距離や座席クラスによって変動する。
一方で、実際に高額な入国税を課している国も存在する。例えばブータンでは、旅行者に対し一泊あたり200ドルの観光税を課している。ほかにも、エジプトは約3750円、オーストラリアは約7000円を徴収しており、日本の国際観光旅客税(1000円)よりは高い水準だ。つまり、日本のインバウンド向けの課税額は
「国際的に見て低い部類」
に入る。高額な入国税の提案が注目を集める背景には、観光政策の再設計が社会的に求められつつあるという現実がある。
では、入国税3万円、3000万人キャップ制という提言は次代の観光戦略を模索する上で現実的な選択肢となり得るのか、それとも荒唐無稽な思いつきなのか――。政策議論の土台として、今後の展開が注目される。
出国日本人減が招く観光依存の歪み
近年、インバウンドの急増にともなうトラブルや迷惑行為が、日常的に語られるようになっている。では実際、どれほどの規模なのか。統計データをもとに、その動向を概観したい。注目すべきは、インバウンドの増加と、日本人の「海外離れ」という対照的な現象である。
インバウンドは2013(平成25)年に初めて1000万人を突破。年間1036万3904人を記録した。その後コロナ禍で激減したものの、2023年には2506万6350人まで回復している。
一方、日本人の出国数は1990年代以降、年間1000万人台で推移してきた。だが、2016年には初めてインバウンドの数が出国日本人を上回った(インバウンド2403万9700人、出国日本人数1711万6420人)。
コロナ以降は円安や物価高も重なり、日本人の海外旅行は大きく減少した。いまや、日本人にとってもっとも身近な外国人は、海外で出会う相手ではなく、
「国内で日常的に接するインバウンド」
に変わりつつある。こうした変化のなかで、公共交通の混雑やマナー違反といったインバウンド由来の問題が地域社会で顕在化している。ただし、こうした影響が全国的に網羅され、統計化されているわけではない。現状では、自治体の個別調査や住民の声を通じて断片的に可視化されているにすぎない。
そんななか、京都市が実施する「京都観光に関する市民意識調査」は、現地住民の実感を捉えた信頼性の高い資料といえる。最新の2024年度版では、次のような結果が出ている。
●路線バスや地下鉄などの公共交通機関が混雑して迷惑した
・67.0%(「とても当てはまる」37.9% + 「当てはまる」29.1%)
●道路が渋滞して迷惑した
・60.3%(「とても当てはまる」33.9% + 「当てはまる」26.4%)
●観光客のマナー違反(ごみのポイ捨て、食べ歩きなど)によって迷惑する人がいる
・70.2%(「とても当てはまる」37.3% + 「当てはまる」32.9%)
これらの数値が示すのは、いわゆるオーバーツーリズムが一部の苦情にとどまらず、生活の質を左右する社会的負担となっているという事実である。
高支出国に効かぬ三万円課税
オーバーツーリズム対策として「入国税3万円」を課す場合、どの程度の抑止効果が見込めるか。金額設定の是非を検討するうえで、まずインバウンドの消費実態を把握する必要がある。
観光庁『訪日外国人消費動向調査2023年』によれば、訪日客ひとりあたりの平均旅行支出は22万6851円。2019年比で43.1%増と大幅に伸びている。支出の内訳は宿泊費が33.8%、飲食費21.6%、交通費10.8%と続く。この水準に対して、仮に入国税を3万円とした場合、全体支出に対する負担率は約14.2%となる。ただし、影響の大きさは出身国によって異なる。
例えば、米国人観光客の平均支出は33万1976円。入国税3万円は約9.0%にとどまる。英国(38万1318円)、フランス(36万952円)などの欧州諸国も同様で、負担感は相対的に軽い。円安の後押しもあり、これら高支出国の旅行者にとって3万円の追加コストは許容範囲内と見られる。旅行日数を短縮するなどの対応はあっても、訪日自体を取りやめる可能性は低い。
一方、アジア諸国にとっては負担が重い。地理的近接性により、
「短期・低予算の渡航」
が一般的だからだ。週末のショッピングやレジャー、あるいはビジネスなど、日常の延長線上にある移動が中心となっている。韓国人旅行者の平均支出は10万9103円にすぎない。3万円の税負担は支出の27.5%に相当し、経済的な障壁となりうる。旅行消費の4分の1近くを入国時に失う計算だ。中国人旅行者の平均支出は27万6604円。負担率は約10.9%となり、こちらも影響が出やすい水準にある。
結果的に、欧米富裕層を重視する都市は大きな影響を受けない。一方で、韓国・台湾・香港からの来訪者が全体の8割を占める福岡市などの地域は、観光需要の急減という打撃を被る可能性が高い。
まとめると、高額な入国税はインバウンドの総数を抑制しつつ、高付加価値層を中心に構成を維持するという意味で、一定の政策合理性を持つ。ただし、アジア近隣諸国からの短期渡航者が減少すれば、
・地方観光地
・中小事業者
にとっては明確なリスクとなる。
観光財源巡る地域格差
それでは、こうした負担増はどのような成果をもたらすのか。試算によれば、「入国税3万円 × インバウンド2506万人(2023年実績)」で約
「7519億円」
を徴収できる。観光庁の年間予算(2025年度)は約530億円であり、その14倍以上の財源となる。一見すると、全国のオーバーツーリズム対策や観光インフラ整備に十分な財源に見える。だが、課題も多い。
観光税は本来、観光客の受け入れによって発生するインフラ負荷や生活環境の悪化に対する補填という性格を持つ。ゆえに、観光客の多い地域ほど高額な支出が求められる。それにもかかわらず、徴収を国が一括で行い、交付税のように均等分配すれば、不満が生じる可能性がある。観光客を多く抱える都市では
「負担に見合う還元がない」
と感じやすくなる。逆に、インバウンドの少ない自治体への配分が優先されれば、「恩恵を受けない地域への過剰な還元」との批判は避けられない。
このように、高額入国税の導入は制度設計としては実行しやすいが、その運用と配分を誤れば、観光政策全体への信頼を損なうリスクも内在している。
訪日制限が生む供給歪み
年間のインバウンドに上限を設けるという施策は、表面的には交通や宿泊施設の需給バランスの調整策として機能しうる。だが、その根幹にある問いは、数値設定や地域配分の技術的な問題ではなく、国家が誰をどこへ、どのように迎え入れるかを制御する構造そのものにある。
国際空港単位で訪日者の受け入れ枠を設定するという構想は、単体では完結しない。仮に成田に年間何百万人という制限を課したとしても、それが国内他地域の流動にどう波及するかは制御不能に近い。例えば、羽田の制限緩和が新幹線の混雑を招き、結果的に長野や新潟といった
「本来の観光対象ではない都市」
に過剰な集客圧をかけることも十分に起こり得る。航空会社への制限導入も、多層的な歪みを生む。便単位で人数制限を設ける場合、それは輸送業という民間ビジネスにおける収益構造の前提を大きく変質させる。
制限によって供給が硬直化すれば、当然、価格変動が過剰に生じる。
・航空券価格の高騰
・空席の抱え込み
・ダミー予約の常態化
など、既存の流通体系が抱える脆弱性が露呈する可能性がある。市場に任せた方が効率的という信仰では片付かない問題だが、それでも制度導入によって初めて可視化される副作用は少なくない。
送客事業者への枠配分に至っては、すでに水面下でのパワーバランスの変化が始まっている。訪日旅行という巨大な産業構造のなかで、誰が最終的に送客力を握るのか――それは地域経済や空港インフラの将来像に直結する。
送客数によって交付金の配分が変動する自治体も出てくるだろう。制度が整う前から、制度を先取りして投資と人材配置を進める企業が出れば、既存の小規模プレイヤーは早々に市場から排除される。
観光制御と制度疲労の危機
さらに、入国管理のあり方そのものが、地理的移動の自由をどう扱うかという現代国家の哲学的な選択に直面する。
入国申請の時点で旅程を詳細に記録させ、実際の入国時に照合するという構想は、技術的には不可能ではない。しかしそれは、訪日体験の
・自発性
・自由度
といった価値を制度の枠で圧縮することを意味する。出発地と目的地を直線で結ぶモデルの中に、回り道や寄り道という人間的な移動の本質は組み込まれない。つまり、制御を強めるほどに、
「観光そのものの魅力」
を削ぐことにもなりうる。仮に制度構築が完了しても、実施に関わるリソース配分の問題は残る。日本の入国審査やビザ発給の現場はすでにひっ迫しており、新たな制度に対応する人材確保やデジタルインフラの整備には数年単位の猶予が必要だ。複数省庁による管轄分担は、手続きを複雑化させ、最終的な責任の所在を曖昧にしかねない。こうした制度的疲労が起きれば、本来の政策目的である地域の持続可能性とは真逆の結果をもたらす。
また、京都のように観光と生活が近接する都市では、制限の対象となる訪問者とそうでない生活者の区分がきわめて困難である。通勤者か観光客か、あるいは短期滞在者か長期滞在者か。その分類は入国時の情報では判別できず、誤った制限が生活者にしわ寄せをもたらす危険すらある。
こうした点を踏まえると、訪問者数に基づく全国一律の制限は、政策としての整合性を確保すること自体が難しい。現実的な対象は、空間と時間の両面で収容限界が明確な場面に限られる。
例えば、富士山のように入山経路が限定され、1日ごとの来訪者を物理的に把握できるケースであれば、制限は混乱なく機能する可能性が高い。実際、山梨県による登山者数の制限施策は、安全管理と環境保全の両面で一定の成果を示している。だがそれは例外的な事例であり、全国展開のモデルとするにはあまりに要素が異なる。
制度の設計・導入・運用のいずれの局面でも、調整の手間と摩擦の蓄積は避けがたい。最終的に問われるのは、制限によって得られる効果と、それを支える構造の維持にかかる負担とが、どこで均衡するかという視点である。
「6000万人時代」の財源戦略
政府は2030年に訪日観光客6000万人、消費額15兆円という目標を掲げている。つまり、観光客の増加が今後も国の基本路線であり、経済成長の手段と位置づけられている。
したがって、必要なのは経済の縮小を招かない形でのオーバーツーリズム対策である。規制ではなく、制度的対応によって混雑を緩和する道を探るべきだ。
その財源として、入国税や宿泊税の活用は避けて通れないかもしれない。とくに交通インフラ整備、例えばバスの増便やドライバーの雇用・待遇改善にあてることができれば、地元住民にも恩恵が及ぶ。
3万円の入国税といった案は現実的でないにせよ、往来の頻度が低いアジア圏以外の観光客に対する課税強化は選択肢となり得る。急激な課税強化には慎重を要するが、インバウンドを安定的な財源と位置づける考え方自体は合理的だ。
重要なのは、税収の配分と制度設計である。誰がどのように使い、地域格差をどう解消するか。その設計次第で、日本の観光政策の行方が決まる。(キャリコット美由紀(観光経済ライター))
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みんなのコメント
公害なのだから対策せねばならないし、そのための費用は外人にも払わせるべきでしょう。なぜならば、日本で納税してないから。
あと、二重料金を認めるようにする。
特に公費で維持管理されている物は税金が使われている。
その金は日本国民が納めた金であり、その金で維持管理されているなら外国人からは別に多くとって問題はない。
法令で認めるようにすればいい。
そうすれば民間も外国人から多く利益をあげることができ、日本人は安く外国人かは多くの収入で潤うようになる。
公的な物は維持管理費を捻出でき民間は潤うから納税が増え、結果的に無駄な支出が減り税収は増える。
観光地なら増えた税収で観光客対策の金としても使える。
免税を廃止して二重料金を認める、たったのこれだけで相当な効果が出る。