現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > FIAを率いて19年。フェラーリ全盛期から変わらぬ統率力を発揮し続ける会長/F1レース関係者紹介(8)

ここから本文です

FIAを率いて19年。フェラーリ全盛期から変わらぬ統率力を発揮し続ける会長/F1レース関係者紹介(8)

掲載 更新 6
FIAを率いて19年。フェラーリ全盛期から変わらぬ統率力を発揮し続ける会長/F1レース関係者紹介(8)

 F1には、シリーズを運営するオーガナイザーを始め、チーム代表、エンジニア、メカニック、デザイナー、そしてドライバーと、膨大な数のスタッフが携わっている。この企画では、そのなかからドライバー以外の役職に就くスタッフを取り上げていく。

 第8回目となる今回取り上げるのは、FIAの会長を務めるジャン・トッド。かつてWRC世界ラリー選手権やF1でチームを率いて成功を収めたトッドの強みとは、一体何なのだろうか。経歴を振り返りつつ、ご紹介する。

数々の偉業を技術面でサポート。現在はF1運営の一端を担う“唯一無二”の存在/F1レース関係者紹介(7)

──────────

 2009年7月に、前会長のマックス・モズレーの引退表明に伴って行われたFIA(国際自動車連盟)会長選挙で、対立候補のアリ・バタネンを大差で破り、10月23日に第9代FIA会長に選出されたのがジャン・トッドだ。

 初代FIA会長のジュアン・ド・ロアン-シャボー(1946年–1958年)もフランス人で、2代目のアドラン・ド・リドケルク・ボーフォール(1958年–1963年)もフランス人だった。さらに7代目のジャン-マリー・バレストル(1985年–1993年)もフランス出身で、トッドはFIA史上4人目のフランス人会長となる。

 そもそもFIAは、その頭文字からもわかるように、「Fédération Internationale de l'Automobile」とフランス語で表記された世界各国の自動車団体により構成される非営利の国際機関で、本部はフランスのパリにあることからも、伝統的にフランスの影響力が強い。

 F1発祥の地は第1回大会が開催されたイギリスだが、フランスはそもそも、自動車が発明されてまもない1895年に世界最初の自動車レースを行った国。6月11日にフランスのパリをスタートしてボルドーで折り返し、再びパリに戻る往復コースで行われたのが、世界初となる本格的な自動車レースだった。

「グランプリ」という言葉もフランス語で、最初に「グランプリ」という名でレースが開催されたのは、1901年にフランスのポーで行われた公道での自動車レースだったように、自動車とグランプリレースはフランスが起源とされてきた。

 トッドは、そのフランスでまずラリーで成功を収めた。1984年と85年にフランスのプジョーを率いて、世界ラリー選手権(WRC)を連覇。その手腕を評価したのが、F1のフェラーリだった。

 フェラーリの社長だったルカ・ディ・モンテゼモーロに引き抜かれたトッドは、1993年のフランスGPからF1に合流。3年後の1996年にベネトンからミハエル・シューマッハーを移籍させると、翌1997年には同じくベネトンからロス・ブラウン(当時テクニカルディレクター)とロリー・バーン(当時チーフデザイナー)も招聘し、ドリームチームを形成する。

 この大改革が功を奏し、2年後の1999年にコンストラクターズ選手権を達成すると、2000年にはシューマッハとともにドライバーズ選手権も制覇。これはフェラーリにとって1979年以来、21年ぶりの快挙だった。

 その後、フェラーリの全盛期は2004年まで続き、コンストラクターズ選手権6連覇は、現在のメルセデス(2014年~2019年)とともにF1史上最多記録となっている。

 しかし、シューマッハが2006年限りで引退し(その後2010年に復帰)、ロス・ブラウンがフェラーリから離脱すると、トッドの求心力は急激に低下。2008年の3月にフェラーリを後にした。すると、フェラーリもまた長い低迷期に入り、現在までタイトルから見放され続けている。フェラーリが最後にタイトルを獲得したのは、2007年のキミ・ライコネンだが、これはトッドがチーム代表を務めた最後のシーズンだった。
 トッドがフェラーリで重要な役割を果たしていたことについて、フェラーリの全盛期にタイヤサプライヤーとしてともに仕事をしていたブリヂストンのスタッフだった浜島裕英さんは、トッドの長所は他人の意見を聞く耳を持っていることと、それを聞いた上で実行に移す統率力だと言う。

「いまでも忘れられないのは、2003年のフランスGPのこと。土曜日の夜、トッドさんから『今夜レストランに集合』という連絡がありました。おいしいフランス料理が食べられると思って、レストランに入ったら、テーブルが会議室みたいに並べられていて、その中央にいたトッドさんから『ハミー(浜島さんの愛称)はそこに座って』と言われました」

「しばらくするとドライバー2人が入って来て、そのあとロス(・ブラウン)やエンジニアたちがぞろぞろと来た。そして、トッドさんは『今シーズンはここまで成績が悪いので、今日は反省会をする』と言うんです。トッドさんがすごいのは、集まった全員に好きなことを言わせたこと。そして、みんなが自由に発言した後で、『これで何が悪いかがだいたいわかった。じゃ、それを解決できるよう、あとはみんなで力をあわせるように』と会議を締めました」

 フェラーリ時代から聞く耳を持っているトッドは、FIA会長になったいまも生きており、年に1回程度ではあるが、メディアを自室に招いて会見を開いている。

 2017年のアブダビGPでは、こんなことがあった。筆者が質問しようと手をあげると「私は日本語は話せないけど、いいかな」と言って周囲を和ませた後、筆者の質問を快く聞いてくれた。筆者の質問は、その年大不振に陥っていたホンダに関するもので、トッドの答えは次の通りだった。

「我々はメルセデス、フェラーリ、ルノー同様にホンダにも、できるだけ長くF1にいてもらいたい。彼らは素晴らしいカンパニーだ。F1の世界で長い歴史があり、多くの成功を収めている」

「残念ながら、現在のホンダは非常に厳しい状況にあり、そこを抜け出すのは簡単ではないだろう。それでも、この世界は何か起きるかわからない。それにはこの世界にいることが大切だ。そのために、われわれができることがあれば、これからもサポートしていきたい」

 聞く耳を持っているトッドが、フェラーリ時代に優れた統率力を生かせたのは、その下にいたスタッフにシューマッハー、ブラウンといった優秀なスタッフがいたからだろう。

 トッドがFIA会長に就任して、今年で19年目のシーズンを迎えている。会長就任当時は持ち前の統率力を生かすことができなかったかもしれないトッドの周りには、徐々にかつてのドリームチームを形成したスタッフが戻りつつある。トッド時代にチームマネージャーを務めていたステファノ・ドメニカリは、FIAのシングルシーター委員会の委員長に就任。ブラウンはFIAではないが、F1のモータースポーツ担当マネージング・ディレクターとして、トッドと密にコミュケーションを図っている。

 F1は7月から、無観客でレースを再開することを決定した。トッドの優れた統率力を期待したい。

こんな記事も読まれています

2024スーパーGT第2戦富士のGT300クラス公式予選Q1組分けが発表
2024スーパーGT第2戦富士のGT300クラス公式予選Q1組分けが発表
AUTOSPORT web
V型4気筒エンジン搭載!! ホンダ「VF750F」に注ぎ込まれた先鋭のメカニズムとは?
V型4気筒エンジン搭載!! ホンダ「VF750F」に注ぎ込まれた先鋭のメカニズムとは?
バイクのニュース
フェラーリ内紛再び? サインツJr.、F1中国GPの1周目ルクレールの動きに苦言「僕らのレースに影響を及ぼした」
フェラーリ内紛再び? サインツJr.、F1中国GPの1周目ルクレールの動きに苦言「僕らのレースに影響を及ぼした」
motorsport.com 日本版
タナベのローダウンスプリング「SUSTEC NF210」に『スペーシアカスタム』の適合が追加
タナベのローダウンスプリング「SUSTEC NF210」に『スペーシアカスタム』の適合が追加
レスポンス
全長4.4mの人気コンパクトSUV 日産・新型「キャシュカイ」欧州で登場 変更されたフロントグリルは「サムライの鎧」をイメージ!?
全長4.4mの人気コンパクトSUV 日産・新型「キャシュカイ」欧州で登場 変更されたフロントグリルは「サムライの鎧」をイメージ!?
VAGUE
マツダ「新型“最上級”ステーションワゴン」!? まさかの「復活」に期待の声も! 次期「MAZDA6“ワゴン”」予想CGが「カッコイイ」と反響集まる
マツダ「新型“最上級”ステーションワゴン」!? まさかの「復活」に期待の声も! 次期「MAZDA6“ワゴン”」予想CGが「カッコイイ」と反響集まる
くるまのニュース
【MotoGP】ホンダは苦境でも、ザルコは「悲観的になる必要はない」と前向き。改革の効果出るのはまだ先?
【MotoGP】ホンダは苦境でも、ザルコは「悲観的になる必要はない」と前向き。改革の効果出るのはまだ先?
motorsport.com 日本版
マットモーターサイクル、新モデル『DRK-01』受注開始
マットモーターサイクル、新モデル『DRK-01』受注開始
レスポンス
2024スーパーGT第2戦『FUJI GT 3 Hours RACE』参加条件
2024スーパーGT第2戦『FUJI GT 3 Hours RACE』参加条件
AUTOSPORT web
やってはいけない「マフラー交換」5例。「爆音」「落下」「黒焦げ」など本当にあったダメなカスタムをお教えします
やってはいけない「マフラー交換」5例。「爆音」「落下」「黒焦げ」など本当にあったダメなカスタムをお教えします
Auto Messe Web
WEC第2戦、7号車トヨタが今季初勝利、巧みな戦略でポルシェの追い上げを退ける。8号車トヨタも5位入賞 【イモラ6時間決勝】
WEC第2戦、7号車トヨタが今季初勝利、巧みな戦略でポルシェの追い上げを退ける。8号車トヨタも5位入賞 【イモラ6時間決勝】
Webモーターマガジン
たった9台の激レアなアルファロメオTZ3! V10 OHVエンジン搭載のその中身はなんと「ダッジバイパー」だった!!
たった9台の激レアなアルファロメオTZ3! V10 OHVエンジン搭載のその中身はなんと「ダッジバイパー」だった!!
WEB CARTOP
ブラックのベントレーウイングが印象的なベントレー・ベンテイガの特別仕様車が登場
ブラックのベントレーウイングが印象的なベントレー・ベンテイガの特別仕様車が登場
カー・アンド・ドライバー
ロイヤルエンフィールド INT 650 発売、価格は94万7100円より…ブラックアウトの「DARK」を新設定
ロイヤルエンフィールド INT 650 発売、価格は94万7100円より…ブラックアウトの「DARK」を新設定
レスポンス
いまの若者にも「パブリカ」の偉大さを伝えたい! いまの大ヒット車「ヤリス」に繋がるご先祖が「超国民思い」のクルマだった
いまの若者にも「パブリカ」の偉大さを伝えたい! いまの大ヒット車「ヤリス」に繋がるご先祖が「超国民思い」のクルマだった
WEB CARTOP
写真の中のセナが蘇る? アイルトン・セナ没後30年を偲ぶ【オートモビルカウンシル2024】
写真の中のセナが蘇る? アイルトン・セナ没後30年を偲ぶ【オートモビルカウンシル2024】
くるくら
”宙ぶらりん”の来季WRCレギュレーション。変更望むFIAにマニュファクチャラーが反発か
”宙ぶらりん”の来季WRCレギュレーション。変更望むFIAにマニュファクチャラーが反発か
motorsport.com 日本版
スズキ新型「高級SUV」発表! 「絶対“スピード違反”させないマシン」搭載! 900万円超えの「アクロス」伊に登場
スズキ新型「高級SUV」発表! 「絶対“スピード違反”させないマシン」搭載! 900万円超えの「アクロス」伊に登場
くるまのニュース

みんなのコメント

6件
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村