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パンクな仕掛け人 ブガッティのデザイン責任者が音楽から得るもの フランク・ヘイル氏に訊く古典と現代性の融合

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パンクな仕掛け人 ブガッティのデザイン責任者が音楽から得るもの フランク・ヘイル氏に訊く古典と現代性の融合

音楽とスピードを愛するデザイナー

「時速300km以上で走りながらザ・プロディジーの『ファイアスターター』を聴くのが大好きなんです」とフランク・ヘイル氏は言う。

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ブガッティのデザイン責任者である彼のこの言葉を聞いて、「ああ、わたしも」と答える人はまずいないだろう。そんな途方もない速度に愛着を抱くにはかなりの経験が必要だし、300km/h前後で運転しながら音楽を楽しむには、車内がそれなりに快適である必要があるからだ。

だが16気筒のハイパーカーを設計するのが仕事なら、このようなレベルの速度と騒音に慣れていることは確かに有利だろう。ヘイル氏はブガッティに20年近く在籍し、2010年に約431km/hの速度記録を残した『ヴェイロン・スーパースポーツ』の開発にも携わった。そして2023年には、長年デザイン部門を率いてきたアヒム・アンシャイト氏の後任として、ブガッティと姉妹ブランドであるリマックの両方のデザイン責任者に就任する。

しかし、常に高貴な世界に生きてきたわけではない。ドイツ生まれのヘイル氏は、英国のロンドン王立芸術大学を卒業後、チェコの低価格ブランドであるスコダのエクステリアデザイナーとして職を得て、ハッチバック開発に携わるようになった。

低価格ブランドとの金銭感覚の違い

彼が最初に手掛けたのは、スコダ・ファビアをベースとするリフトバックの『ラピッド』という控えめなモデルだった。そのコンセプトデザインは偶然にも、初代ヴェイロンの基本デザインを担当した後、ブガッティからスコダへ移籍したヨゼフ・カバン氏によるものだった。ヘイル氏とは真逆の経歴である。

「オクタビア(上級モデル)を買う余裕がない層」を想定したラピッドは、実用性重視の質素な乗用車であり、ヘイル氏が現在担当する数百万ポンド級の「ミサイル」と呼ぶべき高級車とは対極の存在だ。しかし、その開発プロジェクトは、営利企業という現実が創造性に課す制約について、彼に貴重な教訓を与えたのである。

「ホイールベアリングをもう少しだけ高価なものにしようとして、苦労しましたよ。追加コストは1個あたり50セント(約75円)でした」と彼は懐かしそうに振り返る。その優しい笑顔は、激しい会議中の表情とは対照的だろう。「生産コストは1台あたり2ユーロ(約350円)増えることになります。それと、スタンスを良くするためにホイールのオフセットを10mm増やそうとしたのですが、提案は通りませんでした。結局、そのせいでクルマは少しナローになってしまいました……」

当然ながら、今ではもう、そんな議論をすることはない。彼が手がけるのはラピッドの千倍もする超高級車だからだ。とはいえ、コンセプト設計において軽率に浪費をしているわけではない。

「金銭面ではさまざまな議論があります。結局のところ、(ブガッティの)年間生産台数は80台に過ぎません。投資を回収するには十分な台数ではないのです。そして当然のことながら、ブランドと従業員に対して、将来を確かなものにするという責任があります」

「信じられないかもしれませんが、当社のビジネスケースは全て、非常に厳密に計算されています。NASAのように『費用は問わない、月へ行け!』というわけではありません。ビジネスとして成立し、財務的に健全でなければなりません」

ブガッティに求められるデザインとは?

そのため取締役会で「金箔を使うか、鋳造品ではなくアルミの塊から削り出すか」といった議論が繰り広げられても、最大の目標は企業の持続可能性にある。実際には、単なる企業存続のためだけでなく、彼らが生み出す超高級ハイパーカーが今後何十年にもわたって人々を魅了し続けられるようにするためでもある。

昨年、ブガッティは米国カリフォルニア州のラグナ・セカ・サーキットで、新開発の『ボライド』と歴史的な名車『タイプ35』を共演させ、タイプ35の誕生100周年を祝った。両車の対比が強調される中、ヘイル氏は、どちらも時代や流行を超越するよう設計された点で共通していると語る。

何よりもブガッティにとって重要なのは「タイムレス(時代を超越すること)」だという。

「これらのクルマは、一度製造され、事故に遭わなければ、わたし達がこの世を去った後も100年以上存在し続けるかもしれません。では、それはデザインにどんな課題を突きつけるのか? デザインはタイムレスなものでなければならないのです」

もちろん、人々の嗜好やデザインがどう進化するかは予測不能だ。そのため、タイムレスを「設計に組み込む」最善策は、時代遅れになるような要素を一切排除することである。

320万ポンド(約6億4000万円)の新型『トゥールビヨン』を例に挙げてみよう。搭載されているタッチスクリーンはたった1つで、使用時以外は完全に隠されている。「確かに、クリスタルガラスや、アルミニウム削り出しのセンターコンソールに費やしたのと同じ金額を、高級な8Kスクリーンにも投資できたはずです」とヘイル氏は言う。「ですが10年後には、8Kの解像度などまったく魅力的ではなくなるでしょう。あっという間に時代遅れになってしまうのです」

「クルマを急速に時代遅れにする要素からは距離を置き、ブガッティを運転する体験と同じように人間の五感に訴えかける、永続的な価値に投資すべきです」

超音速旅客機とハイパーカーの共通点

エンジニアリングを芸術として評価する彼の姿勢を考えれば、ヘイル氏が自らを「航空オタク(Avgeek)」と公言しているのも不思議ではない。航空機に魅了され、航空機の種類、その誕生秘話、空を飛ぶ仕組みについて深い知識を持っているのだという。

彼が高速道路の脇に立ち、空港へ向かって頭上を飛ぶエアバスA320の尾翼番号を丹念に書き留めている姿は見られないだろうが、空を飛ぶというエンジニアリングの力に対して深い敬意を抱いていることは確かだ。

一番好きな機体は? ……いや、最高速度480km/hの『シロン・スーパースポーツ』や1800psのV16エンジンを搭載したトゥールビヨンといった数々の傑作を手掛けた人物に、そんな質問をするのは愚かなことだ。

「コンコルドの大ファンです。研究した本は山ほどあります。残念ながら搭乗経験はないのですが、チェルシー(英国)に住んでいた頃、ヒースロー空港の飛行経路が自宅の真上を通っていました。ボーイング747や767とは明らかに違う、コンコルドが頭上を飛ぶ音はすぐに分かりましたよ」

この伝説的な超音速旅客機についてヘイル氏が最も魅了されているのは、「基本的にコンピューターをほとんど使わず、製図板と紙の図面だけで作られた」という点である。つまり、コンコルドの驚異的な性能と象徴性は、人間の才能によって成し得るものだということを証明している。この精神は、コンコルドが初飛行してから56年経った今も、彼自身の「人を第一に考える」経営方針に強く影響を与えている。

しかし、もっと明白な共通点もある。「当時の超音速飛行を目指す他の航空機では、Gスーツを着用する必要がありました。コンコルドでは、ただくつろいでワインを飲むことができたんです」

これは現代のブガッティと似ていると言わざるを得ない。ヴェイロンは故フェルディナント・ピエヒ氏(フォルクスワーゲン・グループ最高責任者)の厳格な要求に基づいて設計・開発されたことで有名だ。400km/h超の速度性能を持つ1000psのハイパークルーザーでありながら、2人のVIPを夜のオペラへ優雅に送り届け、窮屈に感じさせることなく、ドレスに皺も作らない。その結果、「ヴェイロンなら片手で300km/hを出せる」とヘイル氏は言う。

大衆車か超高級車か、究極の二択

では、両極端な経験を持つ数少ない人物である彼に、核心的な質問を投げかけよう。100万人が買う1万ポンド(約200万円)のクルマか、それとも1000万ポンド(約20億円)以上で売れる1台か、設計するならどちらを選ぶ?

「難しい質問ですね。幸せそうな家族を乗せたスコダ・ラピッドがわたしの横を通り過ぎるのを見るたびに、嬉しくなります。新車当時、好きな仕様で注文できたのに、自分では買わなかったことを今になって後悔しています。グレーのボディに、赤いディテールを施したシートのモンテカルロ仕様が欲しかった」

「中古車を探しても、この組み合わせにはなかなか出会えません。だから、もしセダン版を持っている人がいたら、教えてください。わたしがデザインしたモデルですから。買ってしまうかもしれませんね」

ヘイル氏の愛車は?

フランク・ヘイル氏の個人的なカーコレクションにはブガッティはないが、アウディS6、E92型BMW M3、ポルシェ911 GT3といった逸品が名を連ねる。

しかし、彼が最も愛おしそうに語るのは、意外な1台だった。1987年式のジープ・チェロキーだ。

新車の時に父親がカナダから輸入したもので、今も日常的に使用されているという。インスタグラムで定期的に更新される動画では、ヘイル氏が10万人以上のフォロワーに向け、自宅で行うメンテナンス作業を解説している。次回の動画はフューエルレギュレーターの交換だそうだ。お楽しみに。

文:AUTOCAR JAPAN AUTOCAR JAPAN
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