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戦略的価格や燃費スペシャルだけじゃない!? 新車最安グレードの役割と5つの目的

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戦略的価格や燃費スペシャルだけじゃない!? 新車最安グレードの役割と5つの目的

 乗用車のバリエーションを見ると、大半の車種に、エンジンや装備の組み合わせに応じて複数の「グレード」が設定されている。

 このうち、売れ筋になるのは、機能が充実した中級から上級のグレードだ。そうなると価格が最も安いグレードには、どのような役割があるのか。それを考えてみたい。

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文/渡辺陽一郎 写真/MAZDA、TOYOTA、HONDA、編集部

【画像ギャラリー】安いグレードにだって存在意義がある!! 新車最安グレードの役割を見る

■目的別最安グレード【1】法人やレンタカー向け

トヨタ ヤリス「X・Bパッケージ」。「X」から衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能をカットしたグレードだ

 最安グレードを設定する目的はさまざまだ。コンパクトカーに多いのは、法人ユーザーやレンタカー向けになる。

 例えばヤリスなら、直列3気筒1Lエンジン搭載車に、「X・Bパッケージ」が設定されている。「X」から衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能をカットしたものだ。

 重要な安全装備をはずした仕様だから推奨はできない。しかも価格は「1.0X」に比べて6万円安いだけだ。クルマの装備は、製造コストのレベルでは驚くほど安く装着されるので、はずしても価格をあまり下がらない。

 従って「X・Bパッケージ」は、一般ユーザーには選ぶ価値の乏しい仕様だが、コンパクトカーにはこのような最安グレードが設定されている。

■目的別最安グレード【2】燃費スペシャル

フィットe:HEV。「ベーシック」グレードは燃費数値を高めるためのグレードだ

 ハイブリッド車の場合、燃費数値を高めるためのグレードを設定することも多い。いわゆる燃費スペシャルで、ボディを軽くするために、装備を省いたり、燃料タンク容量を小さく抑える。

 燃料タンク容量を減らすといっても、タンク本体を小さく軽量化するわけではない。単純に容量を抑えるだけだ。クルマの車両重量は燃料を満タンにして計測するから、搭載できる燃料が少なければ軽量化したのと同じ効果が得られ、燃費数値を有利にできる。

 燃料タンクが小さいと、満タンで走行できる距離も短くなってユーザーの不利益になるが、このような仕様が用意されている。そして燃費スペシャルは装備を省くから、先に挙げた法人やレンタカー向けのグレードと兼用されることも多い。

 例えばプリウスの燃料タンク容量は、大半のグレードが43Lだが、「E」は38Lだ。「E」は車両重量も軽く、「S」を30kg下まわる1320kgになる。

 その結果、WLTCモード燃費は「S」が30.8km/Lだが、「E」は32.1km/Lに向上した。「E」は装備もシンプルだから、価格は260万8000円で、「S」よりも4万7000円安い。最安で燃費数値は最良だ。

 ノート「F」も、燃料タンク容量をほかのグレードに比べて4L少ない32Lに抑えた。WLTCモード燃費は、ほかのグレードが28.4km/Lで「F」は29.5km/Lになる。

 この数値はフィットe:HEV「ベーシック」(これも燃料タンク容量は同じだが装備を省いた燃費スペシャルだ)の29.4km/Lを辛うじて上まわったが、特に優れた数値ではない。

 このほかヤリスハイブリッドのWLTCモード燃費は35.4~36km/Lと優秀だが、燃料タンク容量は36Lだから、ノーマルエンジン車に比べると4L少ない。

 なお燃費スペシャル的なグレードは、販売が低迷するから、発売から少し時間を経過すると廃止されることも多い。前述のノート「F」も、受注台数全体に占める比率は0.2%で、ほとんど売れていない。

 ノートにとって本当に必要なグレードなのか、開発者に尋ねると「e-POWERの低燃費を訴求するために設定したが、今後は廃止される可能性もある」と述べた。

■目的別最安グレード【3】割高感を解消するため

ハリアーの「S」グレードは価格を200万円台ギリギリに設定し、モデル全体の割高感を防いでいる

 「あのクルマは価格が高い」と思われるのを避けるため、価格の安いグレードを設定することもある。

 例えばハリアーのノーマルエンジンを搭載した「S」は、装備の貧弱なグレードではないが、価格を299万円に設定した。仮に301万円だったら、印象が変わり、ハリアー全体の買い得感にも影響を与えただろう。

 実際に多く売られるのは「G」(341万円)以上のグレードだが、299万円の「S」があると、ハリアーが身近なクルマに感じられる。ハリアーの割高感を解消しているわけだ。

 また、高価格車の開発者は次のように述べた。

 「装備がシンプルな価格を抑えたグレードは、たとえ売れなくても必要だ。高価格車のお客様は、一番安いグレードは買いたくないから」

 一番安くても高くても、自分にとって必要なグレードを選べば良いと思うが、すべてのユーザーがそう考えるとは限らない。「自分よりも下の存在」が欲しいのか…。クルマの開発者と話をすると、時々悲しい気持ちになることがある。

■目的別最安グレード【4】販売テコ入れのために追加

販売テコ入れのために最安グレードを新たに設定したCX-3

 クルマの売れ行きが伸びない時、割安な特別仕様車を追加することが多いが、車種によっては新しいエンジンを搭載したグレードを加えて、価格を大幅に引き下げる。売れ行きを伸ばすために追加される最安グレードもあるのだ。

 例えばCX-3は、2015年に直列4気筒1.5Lクリーンディーゼルターボのみを搭載して発売された。この時の最安グレードは237万6000円(消費税は8%)であった。

 CX-3は1か月の販売目標を3000台に設定したが、2016年の月平均登録台数は1656台だ。発売後1年しか経過していないのに、CX-3の売れ行きは目標の約半分と低迷した。

 そこで2017年に2Lガソリンエンジンを追加して、価格を安く抑え、最安グレードを210万6000円(消費税は8%)に引き下げた。それでも売れ行きが伸びず、2020年には1.5Lガソリンエンジンも加えた。それにより最安グレードの価格は、189万2000円(消費税は10%)となった。

 この価格はさらにコンパクトなSUVのライズ「G」(189万5000円)を若干下まわるが、2020年におけるCX-3の月平均登録台数は635台と低迷する。発売時点で割高感が生じて売れ行きが伸び悩むと、その後に最安グレードを更新しても、販売をテコ入れするのは難しい。CX-3は貴重な教訓を残した。

■目的別最安グレード【5】シンプルなグレードにこそ価値があるから

シンプルなグレードにこそ価値を見出そうというのがマツダ ロードスターだ

 最安グレードの目的は、法人向け、燃費スペシャル、割高感の解消など、いまひとつ魅力を感じにくい。しかし「シンプルなグレードにこそ価値がある」という考え方で設定された最安グレードもある。その代表がロードスター「1.5S」だ。

 「1.5S」の価格は260万1500円と安いが、一番の魅力はそこではない。6速MT専用車でありながら、トンネルブレースバーを省いたことによる運転感覚だ。

 補強材を省いたためにボディ剛性は下がったが、挙動の変化は入念にチューニングされている。カーブを曲がっていくと、粘りながらヌメーッと後輪が横滑りを開始する。この時の挙動(感覚的にはクルマの見せる表情)が、初代ロードスターにソックリなのだ。車両との一体感を呼び覚ます。

 この運転感覚には、少々目頭が熱くなった。初代ロードスターを初めて試乗した30年以上前の記憶と、当時の思い出が、なぜかリアルに蘇ったからだ。昔の恋人に良く似た女の子と出会って話をしたら、実はその女性の娘だった、という感じだろうか。

 クルマの本質が宿る最良の最安グレード、それを待っているベテランのクルマ好きは意外に多い。特に趣味性の重視されるクルマは、最安グレードにこだわって開発していただきたい。

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みんなのコメント

5件
  • 廉価グレードこそ、そのモデルをよく知る事が出来ると評論家は言う
    上級グレードは良くて当たり前
  • クラウンやセドリックに、スタンダードやデラックスと言った下級グレードが設定されていた。シンプルで好感が持てるグレードだった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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