日産 サクラ 「軽自動車枠で上質を目指したBEV」の専門家レビュー ※掲載内容は執筆日時点の情報です。

西村 直人
西村 直人(著者の記事一覧
交通コメンテーター
評価

4

デザイン
5
走行性能
4
乗り心地
4
積載性
4
燃費
3
価格
2

軽自動車枠で上質を目指したBEV

2022.11.28

年式
2022年5月〜モデル
総評
軽自動車のBEVはやはり相当の需要があったということ。一方で、補助金ありきでの強気の価格設定では、この先は先細りしていくだろう。補助金は税金なので、未来永劫、補助は続かない。大切なことは充電一回あたりの実質的な走行距離120km程度に留まるBEVの軽自動車を、どのようにガソリンの軽自動車と共存させていくのか。スズキ「アルト」は実用燃費数値で30km/L。車両重量はわずか680kgだからLCA換算でのCO2排出量が少ない。両車とも脱炭素社会への強い味方だ。
満足している点
軽自動車規格のBEVは、2009年のi-MiEVが世界初の量産モデルだ。その同じ枠組みにSAKURAは入る。軽自動車のBEVとして、共同開発を行なった三菱「ekクロスEV」と同時期に販売を開始。SAKURAの美点はスタイルと上質さ、そして乗り味の滑らかさだ。インテリアはガソリンモデルのデイズから変更し、モノリスと呼ぶ2つの液晶パネルを連結させてインテリアを形作る。スイッチ、シート、ドアノブなど手が触れる場所の質感を登録車レベルにまで高めた。ここは大きなアドバンテージだ。
不満な点
WLTC値で180km、冬場は実測120km程度となる充電一回あたりの走行距離が気になるとする、そんな声からそれほど売れないのではないかと、登場直後は騒がれた。しかし、発売から1ヶ月で2万台以上の受注を達成、杞憂だったのか……。すでに多くのユーザーの手に渡っているSAKURAの使われ方は、徹底した毎日の移動手段、しかも近場の限定がつく。急速充電も使えるが、長距離移動には向いていない。せっかく上質で滑らかな乗り味なのに、少々もったいない。これが気になる点。
デザイン

5

一連の日産デザインのなかでスマートで上品な佇まいは群を抜く。ベースは日産の軽自動車「デイズ」だが、その開発初期段階からSAKURAの存在があったことから、ガソリンモデルとBEVが両立するプラットフォームの基本と、骨格デザインが決められていた。ただし、SAKURAとデイズでは90%以上が異なるパーツを用いた。空力性能を向上を目的としてフラッシュサーフェス化を進め、LEDの電装パーツをちりばめながら差別化が図られた。同時に、SAKURA専用のボディカラーも用意している。
走行性能

4

電動駆動モーターの強みは大きなトルク値だ。SAKURAにはデイズのターボモデルが発揮する最大トルクの約2倍のトルクがあるから発進時から中間加速領域においても力強い。運転してみると、スムースにトルクが立ち上がっているのであまり速さは感じないが、テストコースでは成人男性3名 撮影機材でも、ほぼ1名乗車時と変わらぬ加速力をみせた。サスペンションは形式こそデイズだが、床面に配置された重量物であるリチウムイオンバッテリーに合せて専用セッティングを施している。
乗り心地

4

SAKURAの上質さは乗り心地にもっとも強く現れている。1070kg(Xグレード)の車両重量を上手くいかし、ダンピングの効いたしなやかな乗り味を示す。タイヤの性能をワンランクアップさせれば良くなるはずだ。回生ブレーキの緻密な制御を実現する「e-Pedal Step」によって、減速時も急な前のめりになることなく、スムースに車体を沈み込ませる。最大減速度は0.2Gなので少し強めの減速感がえられる。ただし完全停止までは行なわず、停止時にはブレーキペダルをドライバーが踏む設定だ。
積載性

4

プラットフォーム設計段階からBEVモデルであるSAKURAを想定していたことから、たとえばバッテリーの搭載スペースを巧みにアレンジすることで、ラゲッジルームへの影響はほぼない。後席にはリクライニング機構と座面のスライド機構があるため、乗車人数と積荷に応じて調整可能だ。ラゲッジルーム下にはアンダーフロアボックを完備する。SAKURA専用デザインのインストゥルメントパネルは助手席部分をトレイ状にすることで利便性を向上。センターパネルには上下にトレイや収納ボックスを設けた。
燃費

3

軽自動車枠だから全幅は1475mmに収まり、ボディはフラッシュサーフェス化されている。しかし、全高は1655mmあるため、それなりに前面投影面積はある。それでも124Wh/kmなので8.06km/kWh(WLTC値)となり優秀な部類。20kWhのリチウムイオンバッテリーにより、WLTC値では180km走行できる計算だ。電力消費量の少ないヒートポンプ式暖房システムを用いるが、冬場の実用燃費は120km程度と見込むべき。急速充電にも対応するがバッテリー性能からして普通充電環境が理想的。
価格

2

法人向けに安価なモデルもあるが、一般ユーザー向けのグレード構成は「X」(2,399,100 円)と「G」(2,940,300_円)の2タイプ。このGグレードを東京都在住のユーザーが購入すると、CEV補助金などと合せて最大で1,165,600円の優遇が受けられる。ただし、この優遇額面は2022年11月現在の値で、将来的には額面の見直しなどが入る能性もある。なお、SAKURAは注文が集中したことに加え、コロナ禍空の部品不足が重なり、2022年11月現在、受注を停止している。
西村 直人
西村 直人
交通コメンテーター
WRカーやF1、MotoGPマシンのサーキット走行をこなし、4&2輪のアマチュアレースにも参戦。物流や環境に関する取材を多数。大型商用車の開発業務も担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。自動運転技術の研修会(公的/教育/民間)における講師を継続。警視庁の安全運転管理者法定講習における講師。近著は「2020年、人工知能は車を運転するのか」(インプレス刊)。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員日本自動車ジャーナリスト協会会員
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