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東京オートサロン2019

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ニューモデル
2019.1.25

回顧録 スーパーカー対決 フェラーリ458 vs マクラーレンMP4-12C 前編

もくじ

ー F1因縁の対決
ー スペック上の差は小さい
ー 抜群の乗り心地
ー 毎日使えるスーパーカー
ー マクラーレンが誇るカーボンタブ
ー その気にさせる458

F1因縁の対決

(AUTOCAR JAPAN誌99号の再録)

わたしたちはまず、ウォーキングにあるマクラーレン本社を訪れた。もちろん、テスト車両を借り受けるためだ。目の前に置かれたこのクルマのルックスについて、今さらくどくど説明するつもりはない。彼らはその分野において間違いなく成功した。そこに疑いの余地はない。

MP4-12Cのシャシーは、カーボンコンポジット素材のタブを中心に構築されている。これはレースマシーンもロードカーも問わず、過去30年に渡りマクラーレンが産み出したすべてのクルマに共通するエレメントだ。

ここにミドシップマウントされる3.8ℓV8ユニットは、2基のタービンとフラットプレーンクランクシャフトが組み込まれ、600ps/61.1kg-mという、驚異的なアウトプットを誇る。もちろん、このクラスにあっても随一の高性能だ。F1界で名を馳せるトップコンストラクターとはいえ、市販スーパーカーの世界では経験の少ない寡作のマクラーレンが、スペック上はカテゴリーのトップに立ったのである。

となると、この世界の王者たるフェラーリは、その名声の上に胡坐をかいていたがゆえに先行を許したのでは、と疑いたくもなるが、458イタリアに触れれば、そんな疑念は消し飛ぶだろう。

スペック上の差は小さい

この新型V8フェラーリは、先代のF430に対し2世代分は進化したと思えるほど秀逸だ。マクラーレンがこの分野に参入した暁には、今まで築いてきたマラネッロのアドバンテージが一瞬のうちに消し飛ぶのではないか、とも囁かれたが、それは杞憂だった。

さすがはこの世界に長く君臨し続けているだけのことはあると納得させる出来栄えだ。確かに、スペック表を並べればMP4-12Cの前に顔色を失うかに思える。しかし、冷静に比較すれば、その差はほとんどの場合、ほんの数%に過ぎないのもまた事実である。

2台の主要スペックを差し引きしたギャップは、最大出力で30ps、最大トルクで6.1kg-m、0-100km/h加速で0.2秒、最高速度では4.8km/h。この数字が大きいか小さいかは見る側の主観によるといっても差し支えないだろう。また、マクラーレンが強調する車両重量についても、われわれの実測ではほんの20kgの違いに過ぎなかった。

いずれも「試合を決定付ける差」とは言いかねる。そして、必ずしも「速い」と「良い」は等価ではない。この、常に肝に銘じておくべき価値基準を、今回は改めて痛感させられた。

そんなことをわざわざ書き立てて、なかなか本題に入らないと焦れている読者もいるだろう。だが、それをわざわざ書かずにいられないほど、このテストではショッキングな事実を目の当たりにしたのだ。誤解を恐れずにいえば、満を持して乗り込んだ期待のスーパーカーがただのクルマに過ぎなかったという事実を。

抜群の乗り心地

MP4-12Cには、他ではありえないような弱点がそこここにある。いや、それを予想しなかった自分が愚かだったのかもしれないが。ドアは叩き付けんばかりにしなければきちんと閉まらないし、エンジン音にはほとんどのケースで耳を傾ける価値はない。

シャシーとパワートレーンのモード(ちなみにノーマル/スポーツ/トラックの3段階式)を選択するスイッチはあまりにもプラスティッキーで、ブレーキ(今回の試乗車はオプションのカーボンセラミック)は低速域で適切に操作できないシロモノだ。まさか、そんなつまらない問題点が最新のマクラーレンにあるわけがないだろう、とお思いだろう。かくいう自分もそう思っていた。

もちろん、走り始めてしまえばそんな瑕疵は気にならない。ブランズハッチへ向かう濡れた道でのコーナリング撮影では、素晴らしい被写体でさえあった。さらに、走り出してすぐに気づいたことがある。乗り心地が抜群にいいのだ。

MP4-12Cのサスペンションはオーソドックスなダブルウィッシュボーン+コイルスプリング形式だが、ダンパーに工夫がある。前後左右4本のそれはオイルの経路が接続されており、電動油圧式パワーステアリングと共用するオイルポンプで油圧が制御される。

これがスタビライザーの代わりを果たし、コーナーではロールを抑制する一方、直線では圧力を落として、優れた乗り心地に寄与するのだ。それは、メルセデスの上級サルーン並みと言ってもいい。決して盛っているわけでも、あなたを担ごうというのでもない。掛け値なしの話だ。

毎日使えるスーパーカー

一方で、458イタリアもまた、乗り心地は思いのほかいい部類だ。磁力制御式ダンパーと比較的ソフトなスタビライザーが協調し、四輪をしなやかに動かしている。

いやいや、スーパーカーの乗り心地なんて興味がない、というご意見はもっともだ。けれども、もしあなたがこの手のクルマ、それも毎日乗れるようなものを造って売ろうという立場にあったら、その点を重要視することになるだろう。マクラーレンが実現したのはまさにそれである。

MP4-12Cのフロントにはまっとうなラゲッジスペースが、室内には快適なシートやエルゴノミックで適切なインテリアが備わる。キャビンの仕立てはフェラーリのような装飾過多なものではなく、極めてまともで分かりやすい。そこから乗り換えると、458は着座位置が高く、空間が広く感じられる。とはいえ、どちらも素晴らしいキャビンで、甲乙付けがたい。

ステアリングホイールは、マクラーレンに軍配を上げたい。小振りでカッチリとした感触のパドルは、ステアリング固定式。ルイス・ハミルトンが週末になると手にするものには劣るかもしれないが、あちらは街なかのロータリーで毎日楽しむというわけにはいかないのだから、比べるだけ野暮というものだ。

対して、フェラーリのパドルはコラムマウント式。より大振りで、ロックまでステアリングを切った状態でも操作は容易だ。特徴的なのが、F1マシーンを思わせる配置がされた、パッド上のスイッチ類である。

マクラーレンが誇るカーボンタブ

クルマ全体からすれば、ステアリングの違いは些細な点に見えるかもしれない。だが、それはクルマとドライバーをつなぐ重要なインターフェイス。それだけにメーカー各社は、この部分の開発を重要視するようになってきている。

MP4-12Cを駆り、M25と名付けられた荒れた路面を持つ高速道路上にいる間ずっと考えていたのは、大きな入力があるたびに、どの速度域でもキャビンの突き上げが起きる原因についてだった。これはおそらく、このクルマの設計に起因するものだ。

カーボンタブの剛性は、もちろん世界トップレベルを誇る。また車体構造を、マクラーレンは「中空」と称している。いうなれば、ドライバーは打楽器、例えばティンパニーの中にいるようなもの。そのせいだろう。タイヤノイズもまた増幅されるのだからかなわない。

にもかかわらず、MP4-12Cは長距離乗れるスーパーカーである。電動油圧式アシストのステアリングフィールは滑らかで、切り始めから麗しくフォースが立ち上がる。フェラーリがある程度スタビリティを犠牲にしてでも、アジリティと生命感を強調するセッティングを選んだのとは対照的だ。

その気にさせる458

マラネロの採った手段には、「印象付けようとわざわざ演出を施している印象」を、もっと言ってしまえば「わざとらしい印象」を受けるかもしれないが、その目的は、ドライバーをその気にさせること。

そして、それを重々承知していても、ちょっとそこまでお買い物のつもりで走り出して、気がつくと運転そのものを楽しんでいる、まったくもってすっかり思惑どおりに踊らされている自分に気づくことになる。それがフェラーリというものだ。

MP4-12Cのトランスミッションを自動変速モードにしてゆっくりと走ったならば、多少ぐずるものの、7速1000rpm以下でも走れてしまう。そして、このモードでは279g/kmという、およそスーパーカーらしからぬ低CO2排出量も達成するが、458ではこうはいかない。クルマの性能ではなく、シビれるようなエグゾーストノートを轟かせず走り続けることに、ドライバーが我慢できないからだ。

そんなとりとめもない考えを巡らせているうちに、われわれはブランズハッチにたどり着いた。その日はバイクの走行会が開催されており、路面は油まみれ。「ドルイズ」ヘアピンでは、なかなか面白い写真が撮れたものだ。だが、2台の600ps級マシーンが本質を見せたのは、このF1の舞台にもなったサーキットではない。その機会は、ウェールズの公道上で待っていた。ロードカーのテストならば、こうでなくてはいけない。

(AUTOCAR JAPAN 編集部)

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