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ジュネーブモーターショー 2018

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ニューモデル
2019.1.03

スーパーサルーン対決 パナメーラvsラピード 感性で選ぶなら 回顧録

もくじ

ー アストン初の4ドア車
ー デザインも造りも正反対
ー 古典的レイアウトのアストン
ー 加速力はパナメーラの圧勝
ー ラピードの高い運動性能
ー ワインディングでも楽しめる
ー 使い勝手ではパナメーラ有利
ー 4WDかV12か
ー 感性のレベルでの勝負
ー クルマとして優秀なのはパナメーラだが

アストン初の4ドア車

あの懐かしくも哀れなアストン マーティン・ラゴンダをご記憶だろうか。ご存知ならば心の奥底にそっとしまいこんでおこう。「史上最低の信頼性」という不名誉な評価を与えられた初代モデルや、その1970年代のアンチヒーローに対して昨年アストン マーティン自らが取った、思わず息が止まるほど醜悪極まりないコンセプトカーにその名を冠してジュネーブ・ショーに出展するという最大級の侮辱とも思える愚挙に、心を乱されないようにしようではないか。

そしてそれは、アストン自身の願いでもある。彼らはこのラピードを、「同社史上初の4ドア車」として売り込みたいからだ。そのために、ラゴンダの名とともに刻印されているアストンにとっては痛ましくも呪わしい記憶を、彼らはすべて消し去りたいわけである。

皆さんもおわかりのように、ラピードの美しさは往時のラゴンダの醜さとは対照的であり、仕上げについても当時のラゴンダの粗雑さとはまるで正反対の上質さだ。だが、本当に大切なのは、走りがどれほどの水準にあるのかのほうだ。具体的にはポルシェ・パナメーラ・ターボに匹敵するほどなのか、それが問題なのだ。

その答えがようやく明らかになった。とある週末、公道とサーキットで数百kmにわたってシュトゥットガルトの怪物を相手に駆け回り、コンセプトもランニングプロトも先に出しながら最後にパナメーラに先を越されてしまったラピードの本当の姿を確認できたのである。

デザインも造りも正反対

今回の対決は、どの一部分を取り上げても実に見応えのある、堂々たる戦いとなった。特に、どちらも単なる伝統的な高級サルーンの領域をはるかに超えてクルマを仕上げてきた点が興味深い。ポルシェはまさに未知なる領域に足を踏み入れ、アストンは意外にもまったく忘れ去られていた分野を再発見していたのだ。

どちらのクルマも簡潔に説明してしまえばほとんど変わらず、ともに高性能なスポーツカーで、ルックスはまるでクーペそっくりだが機能的にはサルーンと同等──となる。だが、実はこの2台は、デザインも造りも正反対と言っていいほど異なっていた。

ポルシェはこれまでに蓄積してきた途方もない量のエンジニアリングに関するノウハウをパナメーラに投入する決断をしたが、それは同社だからこそ可能だったアプローチだ。過給機を備えた直接燃料噴射の4.8ℓV8エンジン、7速DCT、それに四輪駆動と最先端技術を使った情報インターフェイスなどがその例である。

英国人としては遺憾ながら、正直に言わせていただくと、仮に望んでいたとしても、アストン マーティンにはこのようなクルマは絶対に不可能だっただろう。これまでがそうだったように、現在も同社の顧客はより保守的な層であり、だからどちらかというと伝統的なクルマ作りを求めている。

古典的レイアウトのアストン

したがってアストンは、大気圧でのみ呼吸する6.0ℓV12のエネルギーを、普通のトルコン式6段ATを介して後輪のみに伝達する形を最新モデルでも採っている。オンボードのエレクトロニクスにしても、ラピードのナビゲーションシステムはパナメーラのそれに比べると、むしろチャールズ・バベッジ(19世紀の英国人数学者)のほうが雰囲気としては似合いそうである。

少なくともパナメーラは、目に付くところに停めておいたら通りがかった通行人の好奇心をおおいに刺激するはずで、ツッフェンハウゼンの本社工場に勤めているポルシェの社員でもない限り、そういう人たちに納得のいく説明をするのはむずかしいだろう。

対するラピードのほうには、違和感はほとんどないはずだ。見る側に少しでもDB9に関する知識があれば、必要とされるインテリアパッケージを得るためにDB9を控えめに大型化したのがラピードなのだと、すんなり納得できる。

そのラピードには、英国人の標準的な価値観で見る限り、ゴージャスという言葉ほどふさわしい形容はない。一方のポルシェはパナメーラに限らず、これまでも見るからに不格好なクルマをいろいろと出してきた。

結局は見慣れてしまうのだが、ことパナメーラに関しては、少なくとも現時点ではそこまで至っておらず、ラピードと並んで走っていると誰も好意的な言葉を寄せてはくれない。だが、それではこのクルマが持つ本来の価値を、あまりに低く見積もっていると言わざるを得ないだろう。

加速力はパナメーラの圧勝

確かに単純にカタログ上の数値だけを見比べれば、この2台の動力性能に語るべき大差はないだろうと結論付けてしまいかねない。500psのパナメーラは477psのラピードよりも多少パワーで優っているが、そのぶん車重も増えているからだ。しかし、右足をひと踏みすれば周囲を唖然とさせるだけの加速力をパナメーラが備えているのは、厳然たる事実である。

パナメーラはラピードの61.2kg-mより2割近く大きい71.4kg-mの最大トルクを持ち、さらにそのトルクを2250rpmで発生している事実に注目していただければ自明だろう。絶対的数値ですでに上回っているうえに、発生するエンジン回転数が半分より下なのだ。

4WDのおかげもあり、パナメーラはウェット路面ですら、0-100km/h加速で5秒を大幅に下回るタイムを安定して出せる。しかもわれわれが行った計測は、大人4人が乗車してのものだ。路面が濡れていたら、万にひとつもラピードに勝ち目はないわけだ。

もっとも、圧倒的なパワーがそのまま走りにおける圧倒的な優位を意味するわけではない。ポルシェにとってはあまり聞きたくないニュースだろうが、アストンの直近の製品であるV12ヴァンテージは走りの実力について非の打ちどころがないクルマであり、それが偶然の産物ではなかったのである。

ラピードの高い運動性能

実際、ラピードの走りには、アストンのシャシー部門が天啓を得たのではないかと思わせるものがある。おおむね満足できるなどというレベルではなく、もはやこれ以上、体感できるような改良は不可能ではないかと感じさせるほどにシャシーの完成度は高い。

乗り心地はパナメーラよりも硬いがハーシュネスはきれいに角が丸められており、今まで見たことがないほど優雅に100mドリフトを決めてみせたりもできる。アストンは長いホイールベースがもたらす利点を存分に活用し、この種のクルマとしては驚くほどバランスよくボディコントロールと乗り心地を両立させてきた。

さらに重要かつポルシェにとってはおもしろくないのは、この卓越した運動性能をもたらしているのが、車重からすると信じ難いほどコミュニケーションに富んだステアリングだという事実である。実際にはパナメーラより20kg軽いだけなのに、ある程度の距離の過酷なカントリーロードをハードに走らせたら、ラピードのほうが500kgは軽いと感じられることだろう。

こうなると、パナメーラの数値的な優位はもはや十分とは言えない。もちろんストレートではパナメーラのほうが速いし、ブレーキも(少なくとも今回の試乗車が装備していたセラミックローターでは)強力で、グリップも圧倒的に優れているのだが、ラピードで快適な走りを満喫したあとにパナメーラに乗り換えると、まるでオーブン調理用の耐熱ミトンを手にはめて運転しているような気分になってしまう。

ワインディングでも楽しめる

決定的だったのは、ウェールズの山岳地帯を抜ける長いワインディングでの走りだ。道幅は狭く、どちらかというと今回のような重量級よりもケーターハムやエリーゼが得意とする道だったが、そこでラピードは、加速力やグリップでの相対的ハンディをはねのけるどころか、あまりあるほどに自信を持って走れる実力を備えていることを、完璧な形で見せつけたのである。

千変万化する足元の状況を正確に伝え続けてくれるので、なんの苦労もなくパナメーラについていけたし、それ以上にドライビングが楽しくて仕方がなかった。これがパナメーラなら、クルマとのあいだにそんなコミュニケーションが存在することすら理解できないし、ましてラピードと同じように楽しむなんて論外だ。

絶対的には遅いはずのラピードから乗り換えたはずなのに、パナメーラはなんとも鈍重に感じられた。いや、実際に鈍重だった。トラクションコントロールと大トルクによってわずかなストレートでも遅れを取り戻すべく詰め寄ってくるので、最終的にはラピードはパナメーラを引き離せなかった。

しかし、パナメーラはラピードに比べたら奇妙なほどクルマとの一体感に欠けていて、とうてい楽しめるものではなかったのである。

使い勝手ではパナメーラ有利

日常的な使い勝手ではパナメーラのほうがはるかに優れている。実際に後席に座って確認するまでもなく、パナメーラの室内空間が圧倒的に広いのはひと目で明らかだ。しかもパナメーラの優位はそれにとどまらず、操作性でもはるかに洗練されている。

ダッシュボードにガラス製のスターターキーを差し込む必要もなく(また紛失する心配もなく)、判読がむずかしいメーターや扱いにくいGPSナビゲーションに悩まされることもない。

さらにパナメーラはポルシェでも最高のインテリアを備えており、正真正銘のラグジュアリーと高品質感を味わえる場所に仕上がっている。飛ぶように流れ去っていく外の風景をここから眺めていれば、2000万円に達するプライスタグも十分に納得できるというものだ。

逆に、もう6年近く前になるDB9の発売当時からアストンのキャビンを知っている人間にとっては、ラピードの運転席の環境になにも驚くところはないだろう。操作性よりも見栄えを優先してデザインした印象が強く、それゆえすでに古さも感じられる。しかもライバルに負けているのはレイアウトだけではない。

座って見回せるすべての場所にポルシェはより多くのコストをかけ、そしてより優れたソリューションを考え出している。シートはより快適であり、ベンチレーションも効率的で、ヘッドランプの照射性もよく、ドライビングポジションの調節幅も広く、小物入れもたっぷりある。

4WDかV12か

実用性の面でも、パナメーラはラピードより格段に燃費がよく、100ℓの巨大な燃料タンクを装備しているので、給油頻度は大幅に少ないはずだ(ただ、ラピードの航続距離も予想外に長く、これはうれしい誤算だった)。

後席空間と同様、トランクルームの容量もパナメーラのほうが広い。これは後席を立てた状態でもフォールディングしても変わらず、ファミリーカーとして休日に使うとなると、このような部分は特に重要になってくる。

そしてもうひとつ、パナメーラで忘れてはならないのが四輪駆動である。要するに、ゲレンデで休暇を過ごすためにアルプスまでドライブを楽しみたいような人びとにとって、ラピードはさまざまな理由から考えてまったく不向きであると言わざるを得ないわけだ。

ただし静粛性については、実際に試乗した範囲ではラピードが優っていた。2重ガラスの導入などといった数多くの対策により、ラピードはアストンの歴史のなかでも最高にリファインの行き届いたクルマに仕上げられている。

おかげでV12のサウンドを聞きたいときには存分に楽しめるし、聞きたくないときにはまったく耳に届かないようにもできた。これについてはアストンが掲げた目標の高さと、それを見事に達成した努力に対して敬意を表するべきだろう。

感性のレベルでの勝負

欧州におけるラピードの価格は、パナメーラのフラッグシップモデルの5割増しに設定されている。そう考えるともっと多くを望みたくなるかもしれないが、それは無理な話だ。なにしろオーストリアのマグナ・シュタイヤー社でラピードを1台製造するあいだに、ポルシェのライプチヒ工場ではパナメーラが10台もラインオフするのだ。そう考えると、ラピードの価格は非常に良心的だと言える。

わたし自身、パナメーラには敬服しているし、実際にありあまる能力を備えたクルマだ。しかも、ポルシェの比類ないエンジニアリングのノウハウを投入してリファインされているのだから、ルックスにそれほど深いこだわりを持たない人なら間違いなく買って満足できるだけの魅力を備えている。

そして、ここが重要なところだが、もしビジネスのパートナーを探しているのであれば、比較の対象となるクルマはほかに存在しない。パナメーラこそ買うべきクルマである。

しかし、惜しむらくは、ポルシェはパナメーラでひとつ、決定的な失敗をしている。感性のレベルでのクルマと人とのコミュニケーションが不可能なのだ。このためにパナメーラは、ドライバーが一体感を覚えながら運転できるクルマではなくなっている。これほど敬意と称賛に値しながら乗り手に対してこれほどまでに無表情なクルマは、わたしはほかに思い当たらない。

クルマとして優秀なのはパナメーラだが

その点で真逆なのがラピードである。もちろん技術的な実力で比べたらポルシェにはおよばないが、その差は想像するほど離れてはいない。このクルマを見てエンジン音を聞き、そして乗り込んで実際に走らせたら、おそらく誰もが最初の数kmでハートをわしづかみにされてしまうだろう。

かくいうわたしも、比較試乗のあいだのほんの短い付き合いにもかかわらず、ラピードに別れがたい気持ちを抱いてしまっている。

自分が必要としてるのはパナメーラのほうだと判断する人からすると、ラピードを必要とする人は少数派ではないかと思えるかもしれない。だが、現実にはアストンが欲しくてたまらないと身を焦がす思いでいる人は少なからず存在している。そして、そういう人たちは、自分がパナメーラのオーダーリストに名を載せるなど想像すらできないと感じているはずだ。

どちらがクルマとして優れているか? 改めていうまでもないとは思うが、価格が安くてより速く、室内が広くて燃費がよく、しかも機能的で扱いやすいパナメーラのほうに決まっている。では、どちらか1台を買えるとしたら選ぶのは? もちろんラピードだ。少なくともわたしは、絶対に迷うことはない。

(AUTOCAR JAPAN 編集部)

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