あのボンドカーが大人のクリスマスプレゼントに!? 億超えアストンマーチンやフェラーリを精巧なミニチュアで再現する工房の世界
掲載 更新 carview! 9
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ロンドンから北西へおよそ1時間半、オックスフォードの北にある小さな町ビスタ―、ここにリトルカー カンパニー(The Little Car Company)がある。文字通り、小さな車作りのスペシャリストである。
ここではミニチュアサイズだが、夢のクルマを手に入れることができる。会社を経営しているのはベン・へドリー。物心がついた時からクルマ好きで、いつかは自動車関連の仕事をしたいと考えていた。現在、カタログに載っているクルマは3台で「ブガッティ タイプ35」、「フェラーリ 250 テスタロッサ」、「アストンマーティン DB5」だ。最新モデルのDB5にはチューンが3種類あって、DB5 ジュニア(6.7ps)、ヴァンテージ ジュニア(13.4ps)、ノータイム トゥー ダイ スペシャル(21.5ps)が選択可能だ。すべてがおよそ3/4サイズ(実車の75%)である。
リトルカー カンパニーの制作しているクルマのパワートレーンはすべて48Vの電気モーターがリアアクスルに組み込まれ、後輪を駆動する。出力はドライブモードにもよるが1.6kW~12kWまで、フロントに搭載される3個のバッテリーはそれぞれ1.8kWhの容量がある。
航続距離はクルマの重量、ドライバーの体重、速度などによるが、通常の巡航速度である20km/hで90km程度だ。普通のEVのように回生機能も搭載しているが、充電は家庭用の電源で、燃料タンクのフィラーキャップを外すとコンセントが見える。バッテリーの充電状況は燃料計がその役割を果たしている。
ミニカーの世界では小型のICE(内燃機関)を搭載したものも存在するが、ヘドリーは最初からEVにこだわっている。その理由はもちろん環境問題で、さらに多くのオーナーが自身の敷地内、あるいは大きなガレージ、さらには室内で運転するという状況も無視できない。こうしたシチュエーションでは排気ガスや排気音、さらにはオイル漏れなどが問題になるからだ。さらにメインテナンスの問題もある。プラグ&プレイというEVの優れた点はミニカーでも同じだ。
今回3台のクルマすべてを試乗できたのだが、とりわけ圧巻だったのは1957年製のフェラーリ250テスタロッサ・ミニであった。ル・マン24時間レースで4回も優勝した美しいボディのフェラーリだが、私の乗ったそれは世界で初めてのEVロードスター版である。
最近ちょっと太めになった私だが(笑)、2種類あるシートの「大」を選べば窮屈だが運転に必要なスペースは残っている。ステアリングホイールは脱着式で、実はここにメインスイッチが組み込まれている。
それにしてもこのテスタロッサは速い。自重はおよそ100kgでビギナーモードを選択してもあっという間に20km/hに達してしまう。さらにレースセットアップではなんと100km/hに達する! 細いタイヤだが低重心のお陰でロードホールディングは悪くない。
もちろんヘドレー社長は、「どうせ単なるオモチャに過ぎない」という批判があるのも知っている。しかし彼らの製品はその辺の新車よりも高いのだ。カタログをみるとブガッティのベース価格は3万6000ユーロ(約470万円)、DB5は5万ユーロ(約650万円)、テスタロッサは11万ユーロ(約1425万円)もする。しかしアストンマーティンやブガッティ、フェラーリの本物のクラシックカーを手に入れるには億単位のお金が必要だ。
そのためにヘドレー氏はミニチュアとはいえ3/4というサイズを選択した。これならばデザインも技術的にもオリジナルに忠実なモデルができ、愛好家なら価格設定も納得できると思ったからである。制作に当たって彼は、オリジナルとなったモデルたちが本当に採用しているサプライヤーから部品の供給を受けることにした。それらは「ブレンボ」「ビルシュタイン」などで、ロゴ、ペイント、レザーなどの素材は、それぞれマラネッロ(フェラーリ)、モルスハイム(ブガッティ)、ゲイドン(アストンマーティン)と、オリジナルの工場から取り寄せている。
デザインも各社の協力で、現役のデザイナー、あるいは本社の資料室から情報を得て作成されている。たとえばブガッティのトップモデルには最高速度400km/hを誇る「シロン」と同じキーが使用され、フェラーリは本物のマネッティダイヤルで出力調整を行う。
合計25名のスタッフ+メカニックを擁するリトル カーの開発と生産はオモチャ工場のベルトコンベアというより、マラネロのフェラーリ工場を思わせる本格的なものだ。ニューモデルは量産までに最低5000kmの耐久テストが行われ、チューブラーフレームの溶接から、カーボンやアルミボディの成型まですべてメカニックの手作業で完成される。
さらに全ての完成車両はコンテナーで出荷される前に工場前のサーキットで、社長のヘドレーによってテストされる。「実は、これが一番好きな仕事なんです!」と、まるでティーンエイジャーのような表情で完成したばかりのテスタロッサに乗り込んだ。年産250台だから、彼はほぼ毎日このシェイクダウン走行をやっている計算になる。しかしこの仕事に飽きている様子はなく、それどころかすっかり楽しんでいる様子だった。
もちろん社長のへドレーは先のビジネスも考えている。それは何とタミヤ模型のラジコンカー「ワイルドワン マックス」を1/1へ拡大、大人が乗れるようにする計画だ。すでにクルマは完成しており、2022年からおよそ1万ユーロ(約130万円)で発売する。
リトルカー カンパニーはビンテージデザインのおもちゃを製造しているが、ひょっとするとこの小さな走る芸術品が、さらに制約が増えることは明白な未来の移動を楽しいもの変える“何か”を暗示しているかもしれない。現在、この工場から生産されているアストンマーティン、ブガッティ、そしてフェラーリは、たとえ公道を走ることができなくても、手元に置くだけで心が豊かになる魅力を持っているのだ。
レポート:T.Geiger(トーマス・ガイガー)/木村好宏/Kimura Office
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