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【クルマ小説】僕は新人トップセールス vol.9「エンドウさん」
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スーツだから匂いがついたらイヤだな

そう思いながら入店すると、隠れ家的な高級店のようだ。黒服の店員さんが落ち着いた声で僕を案内してくれる。言われるまま店の奥に入っていくと、間接照明がどんどん薄暗くなり怪しげな雰囲気を醸し出している。その先にある個室では、まだ夕方だというのにドアの外まで溢れんばかりに盛り上がっている。なんと、僕はその個室に通されたのだ。

「おーーー、マエダお疲れ!」
「成立オメデトー!」

なんだ、エンドウさんも来ていたのか。いや、事務のオネエさんの磯見さんや、先輩オカダくん、洗車の清水さん。なんだ、みんないるじゃないか。呆気にとられる僕にニヤニヤしながらエンドウさんが言う。

「今日はマエダが苦労して商談を成立させてくれた。だから俺からのちょっとしたお祝いな。あーお兄さん、特上ハラミと特上カルビ、人数分追加よろしく!あ、あと人参!マエダの好物だからな!」

エンドウさんはこういう男なのである。僕は会社に入ってこの半年近く、今回の狭山さんのように社会的地位のあるお客様をお相手できずにいた。僕にはそういうスキルがなかったのだ。媚びてもいけない。高飛車でもいけない。適切な知識や教養を求められるエリートビジネスマンは顧客リストの中に何人もいたが、僕はそういう人たちとの商談はからっきしダメだった。この日、帝国ホテルでの商談でベンツを買ってくれた狭山さんはその初めてのお客様だった。こうした方を満足にお相手できるようになって、初めて営業は一人前。エンドウさんはずっとそう言い続けていたし、僕にはそれがプレッシャーと感じていたことを、エンドウさんはよくわかっていた。

エンドウさんの愛車はハイエースだ。1984年式くらいのスーパーGL。足回りがいつもドロドロなのは、エンドウさんの得意先の多くが、中小建設業の経営者や監督といった人々だったことと無関係ではない。店ではビカモンのセルシオやベンツ、BMを展示しながら、日々の肉体労働に身を粉にし、額に汗しながら必死に働いている得意先にエンドウさんはどこか強いシンパシーを感じていた。だから積極的に現場に出向いては若い衆のクルマも丁寧に世話をしていた。

「やっぱ、現場にビカモンのセルシオで行くわけには行かねぇよな、マエダ」

だからハイエースなのだ。でも、エリート系顧客のもとにこの車で参上しても平気らしい。それは離れた場所の有料駐車場などに止めてしまうから、そもそも見られることがあまりない。もし、見られても「タイヤ運搬用なんですよ」と誤魔化すだけだ。それに「薄利」を印象づけられるのも一石二鳥だという。

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