■かつてのSA・PAのレストランはおいしくなかった
高速道路を利用するときの楽しみといえば、サービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)の美味しい料理やお土産でしょう。近頃では「SAやPAの料理がおいしくなった」という声も聞かれるようになりました。
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しかし、その発言をよくよく吟味すると、別の意味が含まれています。それは「昔は美味しくなかったけど…」という意味です。
とくに昭和の時代のSAやPAを知っている人は、そのイメージが強いはずです。そして、サービスエリア飯はおいしくなかったというイメージには、それなりの理由がありました。
日本で高速道路が初めて開通したのは1963年(昭和38年)7月のこと。最初の高速道路は名神高速道路で、栗東ICと尼崎IC間に開通しました。
第一号のSAは大津SAの給油所で、高速道路開通の2か月後の9月に完成しました。レストランと修理所は、翌10月にできあがります。当時の日本は、まだまだクルマの性能が低く、高速道路を走るとしょっちゅう故障したため、修理所が必要だったのです。
SAはオープンしましたが、そこで問題になったのは誰が運営するかということです。高速道路やSA/PAは、道路公団という役人が管理するものでしたが、レストランや売店、ガソリンスタンドなどの運営は、お役人よりも民間に任せた方が良いでしょう。
そこで、競争入札制度で営業者を募りました。完成したSAやPAの運営は民間に任せることになったのです。
しかし、ここで日本の役人のまじめさが発揮されます。
「SA/PAは公共サービスのためにあるので、民間が営利を優先して本来の目的を逸脱しないように、厳しくチェック・指導する」ことになりました。
そこで導入されたのが、料理メニューの承認制であり、量・規格・価格の基準です。これがあることでユーザーは、どこのSAやPAに行っても、同じレベルのサービスを受けることができました。目指したのは「安くて、早くて、おなかいっぱい」です。
実際に、その水準を守るために、公団のスタッフは定期的にSAとPAを巡って味が一定かどうかをチェックしていました。「朝から晩まで、ずっと同じ料理を食べ続けるのは辛かった」という話を聞いたことがありますが、それでも実施するとは、なんとまじめなことでしょう。
「安くて、早くて、おなかいっぱい」というサービスは、1960年代から1980年代の初めごろまでは問題なくユーザーに受け止められていたようです。
■平成初期の努力が、2005年の民営化で一気に加速
高度経済成長を達成し、バブル景気に向かう1980年代後半から雲行きが怪しくなります。1986年(昭和61年)に、政府から総務庁勧告が下されたのです。
内容は、「料理メニューや商品が全国画一的で、嗜好が多様化・個性化する利用者の満足を得ていない」というものでした。また、それと並行するかのように、男性雑誌などで「SA/PAの食事はまずい」という批判が続出します。
実際に1980年代後半の料理の人気ランキングを見ると、「豚汁定食」「チャーシューメン」「カレーライス」「ポークカツ」というメニューが並びます。横綱級の人気を誇るのは「豚汁定食」です。
ランキングがあるということは、どこでも同じメニューだったことも意味します。また、内容もザ・定番ということで、バブルに向かう好景気の日本人としては物足りないモノがあったのでしょう。
指摘や批判を受け、SA/PA側も改善に乗り出します。1990年(平成2年)に、東名高速道路の足柄SA、翌1991年(平成3年)に海老名SAをリニューアル。非常にモダンなデザインを取り入れて、サービス向上のイメージアップを図ります。
また、レストランの調理人による「料理開発研究会」というコンテストもスタート。新メニューも着実に増加させていきます。さらに「ハイウェイポスト」といったユーザーの意見を取り入れる仕組みも導入しました。 このような地道な努力がさらに加速したのが、2005年(平成17年)の民営化です。高速道路は公団ではなく、NEXCO(ネクスコ)という組織が管理することになりました。
民営化されたことで、平成の初めごろから進められていた新メニュー開発や、SA/PAごとの特徴を生かすという方針がさらに強化されます。施設自体のリニューアルも定期的に実施され、ハードとソフトの両面からサービスの向上が進みました。
そうした努力の末に、ようやく最近になって、「SAやPAの料理がおいしくなった」といってもらえるようになったのです。
一度ついてしまったイメージはなかなか変えることが難しいもの。振り返ってみれば、昭和の最後にできあがった「SA/PAの食事はまずい」という汚名を返上するのに約30年間もかかりました。それがSA/PAの平成だったといえるのではないでしょうか。
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