低速トルクと高速のパワーを両立するエンジンのシステム
VTEC=ブイテックとは、Variable valve Timing and lift Electronic Control systemの略で、可変バルブタイミング・リフト機構のひとつ。レシプロエンジンのエンジン特性は、簡単にいえば、バルブの開閉量とタイミングをつかさどるカムシャフトの山のカタチ=カムプロフィールで決まる。
仮に同じ2リッター直列4気筒のエンジンでも、カムプロフィールが中低速重視ならファミリーカーのようなエンジンとなり、リフト量が多く、作用角の広い高回転型のカム、いわゆるハイカムが入っていれば、レーシングエンジンに近いスペックとなる。
たとえば、日産のVQ35DEエンジンは、フェアレディZからミニバンのエルグランド、FFのティアナ、SUVのムラーノまで搭載されていたが、最高出力もトルク特性もそれぞれ違う。これはECUその他のセッティングの影響もあるが、カムプロフィールの違いが一番大きい。
要するに低回転時と高回転時では、燃焼室内の爆発圧力が違うので、爆発させるための適切な吸入空気量も違ってくる。そのため低回転のトルクと高回転のパワーをひとつのカムで両立させることができないとされてきた。
ホンダのVTECは、ひとつのカムプロフィールでそれが両立できないのなら、ひとつのエンジンに低速カムと高速カムを両方用意して、回転数に応じて、カムを切り替えればいいのでは? という発想から生まれた画期的なエンジンである。
低速用と高速用の二つのカム山を、油圧ピンで切り替えることで、幅広いトルクバンドと、低燃費、高出力を達成している。
この可変バルブの技術には、VTECのような可変バルブリフト(&タイミング)と、VVT-iなどの可変バルブタイミング機構(可変バルタイ)があるが、両者の違いは、食事を例に考えるとわかりやすい。
VTECは、リフト量が変わるので、そのときの食欲に応じて、料理の量を、大盛りか小盛りかを選べるサービス。当然、小盛りで走れば燃費がいい。
一方可変バルタイは、文字どおりタイミングの調整。夕食は、早めのいいので18時頃、いや19時頃、もっと遅く21時頃……と、言った感じできめ細かくサービス。同じ料理の量でもお腹が減っていない時には食べきれないし、空腹時にはご馳走に感じる。
どちらが偉いという話ではないが、より画期的なのは、やはりVTEC。理想的には、VTEC+可変バルタイとなるので、ホンダでは、2000年にVTECに、連続可変バルブタイミングコントロール機構(VTC)も加わえたi-VTECを搭載した、K20Aエンジンも完成させている。
ちなみにVTECエンジンの搭載第一号は、1989年にデビューした2代目インテグラ(DA型)。NAエンジンの量産車で、初のリッター100馬力を達成(1.6リッターで160馬力)。
当時のNAはリッター70~80馬力が標準的な時代。8000回転という回転数も、おなじ1.6リッタークラスのエンジンに対し20%もアップという、飛び抜けた高性能エンジンだった。
なお、この1989年=平成元年は、スカイラインGT-R(R32型)と、初代ロードスター(NA6型)がデビューした年。VTEC搭載のインテグラと合わせ、1989年は、国産車史上最高のビンテージイヤーといっていい。
その後、VTECはNSX、シビック、アコードと、ホンダのほぼすべての主要車種に搭載車が拡大され、いまやホンダエンジンの代名詞になっている。
(文:藤田竜太)
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