米国のEVメーカー「テスラモーターズ」の会長兼CEOのイーロン・マスク氏は7月20日(現地時間)、同社の公式ブログで最高機密であった新事業計画「マスタープラン・パート2」を公開した。
以下、イーロン・マスク氏が公開したマスタープラン・パート2(全文)。
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私が10年前(2006年)に書いた最初のマスタープランは最終段階に入りました。最初のマスタープランはあまり複雑なものではなく、次のステップで構成されていました。
1.高額になるのは避けられない、少量生産車を作る。
2.その売上でより低価格な中量生産車を作る。
3.その売上でさらに低価格な大量生産車を作る。
そして...
4.ソーラーエネルギーを提供する。これは冗談ではなく、テスラのウェブサイトに10年前から書かれています。
テスラがステップ1から始めなくてはならなかったのは、私がペイパルの売却で得たものでできる最大限のことだったからです。成功する可能性があまりにも低いだろうと思い、最初は自分以外の人の資金にリスクを負わせるべきでないと考えました。これまでに自動車会社として成功したスタートアップ企業は非常に稀です。そして、2016年の時点で破産していないアメリカの自動車会社は合計で2社、フォードとテスラのみです。自動車会社を起こすこと自体愚かなことと言えるかもしれませんが、電気自動車会社に至っては愚の骨頂です。
また、少量生産車ということは、より小さくシンプルな工場で、ほとんど手作業でクルマを作ることを意味します。スケールメリットがなければ、何を作ろうとも高額になります。それはエコノミー セダンでもスポーツカーでも変わりません。でもスポーツカーであれば少なくとも何人かは高額を支払っても良いという人はいるでしょう。
私がこの最初のマスタープランを書いて発表した理由の1つは、テスラを見えない攻撃から守るためでもありました。テスラは金持ちのためだけにクルマを作ろうとしているだとか、スポーツカー メーカーが足りていないと感じているのだろうだとか、その他理不尽な攻撃は充分に予想されました。しかしそのような内容の無数の記事が書かれるのをブログだけで防ぐことはできなかったため、残念ながら、その目的は全くと言っていいほど果たすことができませんでした。
それでもマスタープランを書いた最大の目的である、私たちの行動が長期的な計画にどのようにフィットするかを説明するには役に立ちました。私たちが目指しているのは、今も昔も変わらず、持続可能エネルギーの台頭を加速し、未来の良い生活を守ることです。それが「持続可能性」の意味するものです。突飛なヒッピーの間だけのものではなく、すべての人に関わることです。
原則として、私たちがどこかの時点で持続可能なエネルギー経済を達成しなければ、化石燃料を燃やし尽くし、文明は崩壊します。いずれにせよ化石燃料への依存を断たなければならず、ほぼすべての科学者が大気中と海中の炭素レベルを大幅に増やし続けることは狂っているということに同意していることを踏まえると、持続可能性を達成できるのが早ければ早いほど良いということになります。
そしてその日が来るのを早めるため、マスタープラン2として、私たちは次のことを計画しています。
■エネルギー生産と貯蔵を統合する
バッテリーとソーラーパネルをスムーズに統合した、美しく、間違いなく機能する製品を作ることで、一人ひとりが自分の電気を作れるようにし、それを世界規模で展開します。注文、設置、サービス契約、スマートフォンアプリはすべて一元管理します。
これはテスラとソーラーシティが別々の会社であったならば上手く行きません。そのため、私たちはこの2社を統合し、別々の会社であるためにできる壁を壊す必要があります。この2社が、同じような起源と、持続可能エネルギー経済を達成するという共通の重大な目的を持つにも関わらず別々の会社であるのは、歴史の偶然によるものです。テスラがパワーウォールを大量生産し、ソーラーシティが高度に分化したソーラーを提供できるようになった今こそ、この2社を1つにする時です。
『地上の輸送手段の主な形を網羅するために事業を拡大する』現在、テスラはプレミアム セダンとSUVという比較的小規模なセグメントで展開しています。モデル3と次のコンパクトSUV、そして新しいタイプのピックアップ トラックを販売することで消費者市場の大部分をカバーできるようになります。以下で説明するこのプランの第三部にある理由から、モデル3よりも低価格な車両が必要になる可能性は低いと思っています。
持続可能な未来の実現を加速するために本当に必要なことは、できるだけ早く生産台数を増やすことです。テスラがマシンを作るためのマシンの開発、つまり工場自体の製品化に力を注ぐようシフトしたのはそのためです。自動車生産の物理の第一原則の分析によると、大体2年間の反復サイクルでバージョン3になれば5−10倍の向上が見込めます。最初のモデル3ファクトリー マシンをバージョン0.5とすると、おそらく2018年にはバージョン1.0になります。
消費者向けの車両に加え、あと2つのタイプのEVが必要です。それは大型トラックと高乗客密度の都市型輸送手段です。これらは共にテスラで開発の初期段階にあり、来年には発表できる予定です。この大型トラック “Tesla Semi”は、貨物輸送のコストを大幅に削減するだけでなく、安全性を向上し、操作も非常に楽しくできると考えています。
自動化が進むに従い、バスを小型化し、運転手の役割をフリート マネージャーが行うようにシフトしていくことは理にかなっていることだと思います。中央の通路をなくし、現在は入口となっている部分にシートを置いて乗客密度を上げ、周囲の車両に合わせてアクセルとブレーキを操作することで、従来の大型バスのようにスムーズなクルマの流れを邪魔することがなくなるため、渋滞が緩和されます。また、このバスは乗客を最終目的地まで送ります。電話を持っていない人のために、既存のバス停に”サモン”の ボタンを設置します。さらに、車いす、ストローラー、そして自転車を乗せられるようデザインされています。
■自動化
技術が成熟するに従い、すべてのテスラ車には完全自動運転を行うために必要なハードウェアが装備されます。そしてそれは、クルマのどのシステムが故障した場合でも安全に自動運転を行う、フェイル オペレーショナル機能を備えます。ここで強調しておきたいのは、カメラ、レーダー、ソナーやハードウェアを実装することよりも、ソフトウェアの調整と実証にかなりの時間が掛かるということです。
たとえソフトウェアが綿密に調整され、一般的な人間よりも余程優れた能力を持つようになったとしても、管轄により大きな差がありますが、真の自動運転が法的に認められるまでは、大幅な時間差があるでしょう。私たちはワールドワイドで自動運転が法的に認められるまでに100億km単位の実績が必要になると予測しています。現在は世界中の車両を合わせて、1日で500万km程の走行実績を積んでいます。
ここで、なぜテスラが今、待つことをせず、部分的な自動運転を実装しているのかを説明します。最も重要な理由は、それを正しく使った場合、人間が運転するよりもかなり安全性が向上するということです。そのため、単にメディアの論調や法的な責任を恐れてリリースを遅らせることは道徳的に許されることではないと私たちは考えているからです。
先日公開された2015 NHTSAレポートによると、自動車による死亡事故は走行距離1億4240万km毎に1件と、8%増加しています。自動運転機能を使用した走行距離は近いうちにその2倍を超え、システムの性能は日々向上しています。一部の人々が呼びかけているようにテスラの自動運転機能を無効化することは、このシステムの名称の元となった飛行機のオートパイロット システムを無効化するのと同じくらい理解できないことです。
また、私たちが自動運転機能を「ベータ」と位置づけている理由も説明する必要があります。これは一般的な単語の意味するベータ ソフトウェアではありません。テスラのソフトウェアは顧客向けのリリース前に必ず厳しい社内審査を通ります。ベータと呼んでいる理由は、気を緩めないためと、それがこれからも改善されていくことを表すためです (工場出荷時は自動運転機能をオフにしています)。ベータのラベルは、その安全性がアメリカの自動車の平均の10倍になった時点で取り外します。
■カーシェアリング
完全自動運転が法的に認められれば、どこからでもテスラ車を”サモン”で呼び出しできるようになります。一旦乗り込めば後は目的地に到着するまで眠ったり、本を呼んだりすることができます。
また、オーナーはテスラ アプリ内のボタンをタップするだけで自分のクルマをテスラ シェア フリートに加え、仕事中や旅行中などのクルマが必要ない時に収入を得ることができます。これにより月々のローンやリースの支払いをオフセットし、時にはそれ以上の収入を得ることが可能になり、ほぼすべての人がテスラ車を所有できる程に、実質的な所有コストが大幅に削られます。ほとんどのクルマは1日の5−10%程しか使われていないため、完全自動運転車の経済的なメリットはそれ以外のクルマの数倍になるでしょう。
顧客の所有するクルマだけで需要をカバーしきれない都市では、テスラ自体がフリートを用意するので、どこにいても、いつでもテスラ車に乗ることができるようになります。
■要約すると、マスタープラン パート2とは、
- バッテリー ストレージとシームレスに統合された素晴らしいソーラールーフを作ります。
- すべての主要セグメントをカバーできるようEVの製品ラインナップを拡大します。
- 世界中のテスラ車の実走行から学び、人が運転するよりも10倍安全な自動運転機能を開発します。
- クルマを使っていない間、そのクルマでオーナーが収入を得られるようにします。
2016年7月20日
イーロン・マスク
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